「1カ月で建つ1000万円の家」をキット化して販売。孫泰蔵も出資する“建築界の新風”【VUILD・秋吉浩気1】

AI要約

神奈川県厚木市に本社を置く建築テック系スタートアップ「VUILD(ヴィルド)」が、セルフビルド可能な注文住宅キットを開発した。

同社のCEO秋吉浩気は、低価格化の秘密は工事費用の削減であり、施主が自ら建築作業を行うことで実現した。

この施主参加型の住宅プロジェクトには全国から50組の応募があり、大きな注目を集めた。秋吉は、歴史に残る伝説的な住宅を築くための仲間を求めている。

「1カ月で建つ1000万円の家」をキット化して販売。孫泰蔵も出資する“建築界の新風”【VUILD・秋吉浩気1】

JRと小田急線の海老名駅から車で約20分。神奈川県厚木市の国道沿いに「VUILD(ヴィルド)」の工場が見えてくる。近年注目を集める「建築テック系」スタートアップだ。

建屋内の吹き抜けの広い空間に、キーンという音がこだまする。大きな組み木細工のような部材が並ぶ。全ての部材は、3次元で加工ができる「木工版の3Dプリンター」で切り出されているのだ。

同社は、こうしたデジタルを活用したものづくりで、ついには「セルフビルドできる家づくりのキット」を開発。代表取締役CEOの秋吉浩気(こうき)(35)は、2023年5月中旬、投稿サイト「note」に次のような構想をぶち上げた。

「坪40万円で建つオフグリッドの注文住宅を開発しました」

その構想は、キット価格で24坪(約80平米)あたり960万円。平屋ではあるが、一棟の家のコストでは破格だ。全国から募集が殺到した。

「1000万円の家」といっても、ボロボロの格安住宅ではない。デザインもスタイリッシュで高品質な住宅なのだという。

なぜ、物価高騰の今の世で、こんな破格な家が実現したのか?

秋吉は安さの秘密を「工事費用の減額」だと明かした。簡単に言えば、大工に頼らず施主自らが作業の人員を集めて「自前で」建てるということだ。

秋吉はビジネスパーソンのように饒舌ではない。ふわりと周囲を包む哲学者のような風貌だ。ところが、事業のこととなると、くっきりした目に子どものような好奇心を宿らせ語り出す。

「キットにしたパーツを組み上げる僕らの建築は、巨大なプラモデルみたいなもの。お施主さんが工作するような感覚で、一棟の家だって作れてしまうんです」

秋吉はまず、「誰もがつくり手になれるように」と、設計のプロセスを素人に開放。同社が輸入販売している「木工版の3Dプリンター ShopBot(ショップボット)」と、連動する自社開発のアプリで、建築設計を簡略化した。

この木材加工機を備える拠点は、今や全国に220カ所以上にも広がる。施主はアプリを使って、自由に設計できるようになった。

さらに、自前でできる領域を押し広げたのが、施工の工程だ。素人でも組み込みやすいよう、精巧な木工技術でキット化に成功。「パコッとはめるだけ」というようなキットを使って自前で組み上げられるようにした。

全ての工程を自前で組み立てるとすれば、キット価格1000万円程の金額で24坪の平屋の戸建てが建てられる。電気設備工事費を含む総工費は2000万程度。そんな構想だ。

秋吉はnoteの投稿で、1組目の施主も募集した。彼の思い入れは、その文面からも伝わってくる。

「歴史に名を刻む伝説的な1組になると思うので、面白い方と一緒に建てたい」

最初は「こんな型破りの住宅に、果たしてニーズがあるのか?」と半信半疑だった。すると全国から50組が応募してきた。このnoteの投稿は、これまでに5万人にも読まれた。秋吉にとって、うれしい誤算だった。

「アプリのローンチ後は事業がどん詰まっていて、『ええいっ』て勢いで思いついたタイトルをnoteに書いちゃった。それが始まり。意外にも大きな反響があって驚きました」