なぜか詐欺事件を名目に、ある日突然、公安部の刑事がやって来た…同業他社の社長が語る「大川原化工機冤罪事件」

AI要約

大川原化工機の社長らが外為法違反容疑で逮捕された事件について、警視庁公安部による捜査の経緯や証言、起訴取り消し後の賠償請求審に至る経緯が明らかになっている。

事件の核となる噴霧乾燥機(スプレードライヤ)に関する公安部の規制要件や逆説的な規制内容について説明されている。

元役員の弁解録取書のやりとりや微生物学の専門家の証言など、捏造や虚偽が疑われる状況も報告されている。

なぜか詐欺事件を名目に、ある日突然、公安部の刑事がやって来た…同業他社の社長が語る「大川原化工機冤罪事件」

 大川原化工機(神奈川県横浜市)の社長ら3人が外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の容疑で警視庁公安部に逮捕されたのは2020年3月のこと。「生物兵器の製造に転用可能な装置を中国へ不正輸出した」という違反内容だったが、後に起訴が取り消された。現在、大川原化工機が国と都を相手取った賠償請求審が続いている。

 この「生物兵器の製造に転用可能な装置」とは噴霧乾燥機(スプレードライヤ)を指すが、具体的にはどのようなものか。同種の機械を製造 し19年に公安部の訪問を受けたという「パウダリングジャパン」(埼玉県川口市)の高橋健太社長は「『生物兵器に転用される恐れのある噴霧乾燥機』と報じるのはそもそもおかしい」と話す。【ジャーナリスト/粟野仁雄】

「19年頃、数人の警察官が突然、訪ねてきました。アポもありません。『最近、東京オリンピックに絡んで中小企業を狙った詐欺事件が多いもので、注意喚起のためお伺いしました』と言いました。普段なら『忙しいから』と追い返すのですが、たまたま時間があったので招き入れると、受け取った名刺には“警視庁公安部”と書かれていた。そんなことで警視庁からわざわざ来るのかな、とは思いました。主に話していたのは安積(あさか)さんという警部補の刑事です」

 安積伸介刑事は、大川原正明社長とともに逮捕された元役員の島田順司さんの弁解録取書(被疑者の弁解を記録する書類)を作成する際、島田さんの指摘で修正したように装い、さらには島田さんに署名させたが、後にこの文書を破棄。島田さんは今年3月、安積刑事と上司2人を「公用文書毀棄と虚偽有印公文書作成・同行使の疑い」で刑事告発した。

 また、防衛医科大学校の学校長だった四ノ宮成祥氏(※「祥」は示偏に羊)をはじめ聴取した微生物学の専門家が「(違反品目に)該当する」と言ったかのように安積刑事が捏造したという証言もある。

「『この工場はどういう物を作っているんですか?』と訊かれたので『スプレードライヤ』と返したところ、『何に使うんですか?』と。『粉末コーヒーや粉ミルクなんかを作ります』と答えると、そのうち『機械に着いた細菌を死滅させることはできるんですか?』とか訊かれました。『細菌は容器の接合のパッキングとかにこびりつきますから、シームレス容器でもない限り分解もしないで細菌を死滅させることなんてできません』などと説明すると、納得したのか30分ほどで帰りました」

 公安部は大川原化工機のスプレードライヤが外為法の貿易管理令に定められた噴霧乾燥器の規制要件である「定置した状態で内部の滅菌又は殺菌をすることができるもの」に違反し、「経産大臣の許可なく中国と韓国に輸出した」とした。「定置した状態」とは「移動も分解せずそのままで」との意味だ。

 殺菌や滅菌ができるから違反というのも奇異に聞こえるが、作業者が安全に扱えるから生物兵器製造に転用できる、ゆえに違法……という逆説的な規制である。

「公安部からはそれっきり何の連絡もなく忘れていましたが、20年春に大川原社長らが逮捕されたというニュースが報じられました。噴霧乾燥機を作る会社は少なく、正明社長もお兄様(大川原製作所社長の行雄さん)も個人的に知っていました。その後、NHKが取材に来たので、安積刑事たちは最初から噴霧乾燥機のことを調べに来ていたとわかりました」