【全国紙とテレビが報じなかった話】ロート製薬が製造した「幹細胞」で「両目の視力が一時なくなる」副作用…厚労省はなぜ動かないのか

AI要約

日本における再生医療の業界内で起きた一時的な視力障害の事例が波紋を呼び、問題が浮上している。

再生医療では幹細胞治療が行われており、高額な治療費や技術力の問題が浮かび上がっている。

医療機関や製薬会社の責任や審査制度について再考する必要がある状況だ。

【全国紙とテレビが報じなかった話】ロート製薬が製造した「幹細胞」で「両目の視力が一時なくなる」副作用…厚労省はなぜ動かないのか

日本が世界でもトップクラスの医療水準を誇るとされる再生医療の業界内で、最近、ある記事が波紋を呼んでいる。

6月1日に共同通信が配信した「再生医療後に一時視力障害 ロート製造細胞、注意喚起」と題した記事がそれだ。自由診療の再生医療の一つである幹細胞治療で、製薬大手のロート製薬(大阪市)が製造した細胞を投与された3人の患者に一時的な視覚障害が発生し、同社が関係医療機関に注意喚起をしたことがわかった、という内容だった。

幹細胞治療とは何か。簡単に説明すると、患者の脂肪などから幹細胞を取り出し、数週間かけて培養した上で、患者に局所注射や静脈点滴で注入する治療法だ。傷ついた臓器など身体中の部位の修復や、老化による壊れやすくなった毛細血管および血管壁を修復する効果が期待できる。

治療費は保険の効かない自由診療のため、1回の投与で平均200万円~300万円台と非常に高額だが、富裕層を中心にニーズが高い。日本は世界でもトップクラスの幹細胞治療の先進地とされ、近年では中国人富裕層をはじめとした多くの外国人が来日して治療を受けている現状がある。

共同通信の配信記事は短行で目立たない内容だったためか、共同通信と、配信先である加盟社以外の全国紙やテレビなどのメディア他社は後追い報道をしていない。しかし、複数の業界関係者は「人命にも関わる重大事案だ」と口を揃える。一体どういうことなのか。

今回、現代ビジネス編集部が経緯を取材すると、十分な培養や管理の技術力を持たない一部の細胞加工業者が管理の手間を省き、コストを削るために患者本位の医療がないがしろにされている現状が浮かんできた。

まず再生医療の法律の立て付けを理解する必要がある。

再生医療では、「治療」または「臨床研究」として行う場合、医療機関は厚生労働大臣の認定を受けた委員会に再生医療の提供計画を提出して審査を受けなくてはいけない。これが特定認定再生医療等委員会だ。

委員は再生医療に知見を有する医師や法律の専門家らで構成され、今回の事案のように医療機関の幹細胞治療を主に審査する委員会としては79の委員会が存在している。幹細胞治療を行う医療機関は、患者1人の治療につき、疾患ごとの提供計画書に基づいた治療をしなければいけない。

今回の事案の主な流れは次のようなものだ。

議事録によると、昨年11月29日、東京都中央区にある幹細胞治療を提供しているクリニックで問題は起きた。ロート製薬が培養した幹細胞の投与を受けた女性患者が視覚異常を訴えた。更年期障害及び卵巣機能低下に伴う諸症状改善が目的の投与だったが、患者は一時的に両目の視力がなくなったという。

幸いにも、その後、視力は回復したが、クリニックから報告を受け、今年1月23日に開かれた委員会には問題が起きたクリニックの院長やロート製薬の担当者が参加し、「不幸な状況が重なれば、重大な事故にもなりかねなかった」と意見が出され、原因や対策などについて審議することになった。

この時点で、原因として、「(クリニック側の)手技の問題」「患者個人の特異体質」の可能性が指摘されたが、とりわけ議論の時間が割かれたのは「ロート製薬の製品加工物(幹細胞の意味)」に何らかの問題があった可能性だった。