東大職組で闘う 「非正規」を分断させない

AI要約

東京大学の教授である佐々木彈氏が、非正規職員の問題に取り組み、有期雇用の年限上限を撤廃して非正規職員の無期転換への道を開いた。非正規労働者の組合参加の重要性、労働組合同士の連帯の必要性について語る。

非正規職員が組合に入りにくい現状、経営側の雇い止め問題、金銭解決傾向、労働組合の強化と新たな取り組みについて説明。

労働組合の重要性、社会の状況を理解し、自分だけでなく共に働く仲間の存在を実感することによる組合の意義について述べる。

東大職組で闘う 「非正規」を分断させない

 東京大学社会科学研究所教授の佐々木彈さんは、非正規職員の雇い止めが大量発生するいわゆる「2018年問題」(※)に東京大学教職員組合執行委員長(現在は副執行委員長)として立ち向かい、有期雇用の年限上限(5年)を撤廃させ、非正規職員の無期転換への道を開きました。

 いま、労働組合の力はどこにあるか。佐々木さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ――非正規の問題は深刻です。

 ◆大学で問題なのは、教員と職員、正規と非正規が分断されていることです。ある私立大学には、学内に正規の教員、非正規の教員(非常勤講師)、正規職員、非正規職員でそれぞれ別々に労働組合があります。東大は正規も非正規も教員も職員もすべて同じ組合ですが、そうしたところばかりではありません。

 非正規職員は組合に入れないところもあります。そんなことをやっていれば、経営側が組合に入れない非正規職員を増やそうとなるのは当然です。まず、そうした形にしないことは大前提です。

 ◇非正規は組合にとって重大問題

 ――労働組合は非正規の人たちの力になれますか。

 ◆年限付きの場合は、組合に入る理由が弱くなります。交渉で待遇改善を勝ち取っても、実現するころには自分はいないと思えばやる気は起きないでしょう。実際に、「2、3年しかいないので組合費は払い損になる」という声を聞きます。

 仕事が時間的にも空間的にも分断されていくと、団結して闘うインセンティブが薄れます。我々も非正規の人は組合費を安くして入りやすくしています。

 しかし、非正規が増えているために組合財政が厳しくなる問題が起きています。非正規の割合が増え、正規の割合が減ることで、結果として組合の組織率が落ちています。

 ――経営側は雇い止めをどう考えていますか?

 ◆形のうえでは交渉には応じても、職場復帰にはがんとして応じないことが増えています。

 裁判所も金銭解決に流れがちです。経営側は金を払って終わらせることが多いのです。「給与何年分」というと大金に聞こえますが、給与がもともと低いので、「何年分」といってもわずかな「手切れ金」です。

 本当に、自治体に数千円払って不要品を捨てているような感覚です。

 ◇組合同士の連帯が必要

 ――どう対抗するのでしょうか。

 ◆労働組合がもう少し大きなロットになる必要があります。

 米国は産業別組合ですから、たとえばトラック運転手はどの会社にいても、どの地域に行っても同じ枠にいます。韓国は企業別組合ですが、横のつながりが強く、助け合います。日本の組合はそこが欠けています。

 旧社会党系と共産党系など、流れの違いでうまくやれないことも理由の一つです。もう少し、組合同士が連帯して、助け合わなければなりません。

 ――組合に希望はありますか。

 ◆若い人には組合が身近に感じられません。組合に入るのが当たり前ではなくなったことで、問題が起きるまでは入る必要はないという考え方も多いのです。私自身もそうでしたからよくわかります。

 しかし、組合は社会の縮図です。組合が強かった時代は人々が希望を持っていた時代でした。労働条件をはじめとして、自分たちの生活をよくする、社会をよくする意欲がありました。

 「どうせ、2、3年で職場を追われるのだからもういいや」とみんなが思うようになると、自分たちの持続可能性を否定する人が増えます。組合がやせほそる社会は、すべてがやせほそる社会です。

 ◇「自分だけじゃないんだ」

 ――組合の良さを教えてください。

 ◆同じ職場にいても職種が違えばなにをやっているかわかりません。組合にいるとそれがわかります。世の中、自分のまわりで何が起きているか、社会でどういうことが起こっているかもわかります。

 職場や社会のなかに、非正規のような差別があって、それを是正しなければならないということもわかります。こんなに困っている人たちがいたんだとわかります。

 組合に入った人がみな必ず言うことがあります。「ああ、自分だけじゃないんだと思った」と言います。これが大事です。この経験をふいにする手はありません。(政治プレミア)

 ※ 労働契約法による無期雇用転換申込権(5年超で発生)が初めて発効する2018年4月を前に、有期雇用職員の大量雇い止めが起きた問題。