罪に問えない「心神喪失者」 被害者・遺族への情報開示不十分、通常事件と「格差」も

AI要約

心神喪失とは、精神疾患により刑事責任能力がないとされる状態であり、医療観察法に基づいて処遇される

心神喪失者や心神耗弱者は通常の刑事裁判ではなく、医療審判により適切な処遇が決定される

被害者や遺族が情報開示や裁判への参加が制限されており、関係者からは制度の不備が指摘されている

罪に問えない「心神喪失者」 被害者・遺族への情報開示不十分、通常事件と「格差」も

殺人などの重大犯罪を犯した者が精神障害などを理由に刑事責任能力がないとみなされる「心神喪失」。通常の刑事事件と異なり、被害者や遺族には事件や加害者の情報が十分に開示されず、裁判も開かれないため意見表明の場も与えられない。関係者は現行制度の不備を訴えている。

■医療の対象に

「通常事件の被害者や遺族と比べて、大きな格差がある」

6月25日に東京都内で開かれた、犯罪被害者や遺族らでつくる「医療観察法と被害者の会(がじゅもりの会)」主催のシンポジウム。同会の濱口文歌弁護士は、心神喪失などと認められた重大事件の加害者の医療的な処遇などを定める医療観察法の運用の問題点について、こう指摘した。

心神喪失とは、精神疾患で自らの行為の善悪を判断できないか、判断できても行動を制御できない状態を指す。刑法39条で刑罰を科さないと定められている。病状が心神喪失まで至らない「心神耗弱」とされた場合も、刑が減軽される。

心神喪失者も心神耗弱者も、通常の刑事裁判の「被告人」ではなく、指定医療機関への入院や通院治療の可否といった処遇を決める医療審判の「対象者」として扱われ、社会復帰を目指すことになる。

シンポジウムでは、司法や精神医療分野の専門家が、被害者支援の在り方や心神喪失者らの処遇の実情について語った。

元大阪高裁判事の村山浩昭弁護士は、医療審判は刑事裁判に比べて事実の審理に重きが置かれていないと指摘。また、審判後に入院した心神喪失者らの退院許可が、書面で行われることが多いなどの実情を明かし「被害者には歯がゆいところもあると思う」と話した。

■「双方にいい結果の場合も」

特に被害者・遺族の不満が大きいのは、加害者となった心神喪失者らに関する情報開示が、プライバシー保護の観点などから十分に行われていないことだ。

シンポジウムでは「加害者の精神鑑定書を見ることができない」「医療審判の傍聴に弁護士の同行が認められず、審判で何を質問しているかも分からず、心細かった」との声も紹介された。

刑事司法を専門とする同志社大の川本哲郎元教授は、重大事件を起こした心神喪失者らの社会復帰促進を目的とした医療観察制度の具体的な成果が「広がっていないのではないか」と指摘。より積極的な情報開示を促した。