「今も掃除すると泥がどんどん」 秋田豪雨1年、生活再建道半ば

AI要約

秋田県で記録的豪雨から1年、被災地の現状と課題。

五城目町では氾濫の繰り返しで住民の心理的ダメージも。

秋田市でも孤立高齢者のケアに課題、地域の復興は個々に異なる。

「今も掃除すると泥がどんどん」 秋田豪雨1年、生活再建道半ば

 秋田県の各地で昨年7月14日から続いた記録的豪雨から間もなく1年を迎える。秋田市のJR秋田駅周辺などの市街地や五城目町の中心部などが浸水し、多くの住宅や市民の生活に大きな被害をもたらした。県内各地では被災家財などの多くが片付けられ、当時の形跡は薄れてきているが、行政の対応などには課題も残る。【工藤哲】

 五城目町内では馬場目川や内川川(うちかわがわ)が氾濫し、計600余りの住宅が浸水などの被害を受けた。内川川は2022、23年と2年連続で流域で浸水被害が起きた。「また起きなければいいが」。住民らは天候を気にかけながら過ごす。

 「居間が何度も浸水すれば心理的にもダメージが大きくなる。家を洗い流す気力がなくなる、という人もいる」。内川川の上流・湯ノ又地区に住む50代の女性はこう話す。川の氾濫の際は泥が混じった水が自宅に流れ込んだ。直後に1週間余り断水し、泥を洗うこともできなかった。「今もそうじをすると泥がどんどん出てくる」という。

 氾濫の後、もともと減少傾向にあった集落の人口はさらに少なくなった。一方で地元に愛着を持ち、1人でとどまって暮らす高齢者も少なくない。「防災の放送がたまに流れる時に『何を言っていたのか聞こえなかった』と聞いてくる人もいる。有事には助け合って避難できるようにしたい」と女性は話す。

 町によると、全世帯の約2割弱の世帯で浸水し、ほぼ全町で断水した。その直後から猛暑が続き、多くの住民が厳しい環境下での復旧作業を余儀なくされた。町では被災直後、住民の安否確認から始まり、その後はごみの片付けやボランティアの受け入れ調整、さらに被災家屋の調査、罹災(りさい)証明書の発行、その後の河川改修など、さまざまな対応に追われた1年だった。

 町の担当者は「被災直後から延べ3500人を超えるボランティアの方に支えてもらい、周辺の入浴施設が被災者の無償利用に協力してくれた。多くの人に支えていただき感謝している」としつつ「要支援者の避難の方法の計画策定や、避難所での備蓄の態勢づくりなどに課題が残った。再度の豪雨に対する住民の心配もあり、有事には情報をしっかり伝えていきたい」としている。

 ◇浸水した秋田市 孤立高齢者のケアは

 市の中心地が軒並み浸水し、7000棟を超える住宅で被害が出た秋田市。コンクリートなどに舗装された道路に長時間降り続け、下水道の排水能力を超えた「内水氾濫」も起きた。市の中心地を流れる太平川などが氾濫し、市街地では多くの車が立ち往生して動けなくなった。

 「住む場所によって被災の程度が違い、それぞれの経済事情も異なるため、地元の復興は決して一律に進んでいない。家の再建を断念して転居する世帯もあって空き家や空き地が増え、地域の空洞化が進んだ」。こう指摘するのは築山地区民生児童委員の鈴木夏代さん(74)だ。

 鈴木さんによると、地元では一人暮らしの高齢者が少なくなく、今も「雨が怖い」と口にする人もいる。「家族が県外に出て地元でのやりとりが薄れている中、雨の時には『自分は大丈夫』と判断して直後の避難が遅れ、2階で長い間動けなかった人もいた」という。豪雨によって災害に慣れていない、孤立した高齢者の存在が改めて浮き彫りになった。

 こうした中、被災した人たちが経験を気軽に語り合う「お茶っこ会」を定期的に開き、少しずつ地域の気軽な声かけを後押ししてきた。最近ようやく効果が出てきているという。

 鈴木さんは地元の被災の記録を写真集の形でまとめた。「雨が降り始める前に避難者を受け入れる拠点づくりが地元ではまだ不十分」と課題を語り、日ごろの気軽な住民同士の声かけや、避難先の早めの確認を改めて呼びかけている。