【社説】自衛隊の不祥事 緩み切った組織の襟正せ

AI要約

自衛隊で特定秘密の不適切な取り扱いや潜水艦乗組員への金品提供の不祥事が相次いで発覚しており、組織の信頼性が揺らいでいる。

特定秘密法の違反者や不適性評価の隊員が特定秘密を扱っていたことが判明し、問題の全容と原因の明らかにする必要性が高まっている。

さらに潜水艦の裏金疑惑も浮上しており、特定企業との関係濃厚な防衛産業の適正な運用の重要性が指摘されている。

【社説】自衛隊の不祥事 緩み切った組織の襟正せ

 自衛隊で重大な不祥事が相次いで発覚した。特定秘密のずさんな取り扱いに加え、潜水艦の乗組員が取引企業から金品を受け取っていた疑惑も浮上している。

 自衛隊は国民の信頼なくして成り立たない。問題の全容と原因を国民の前に明らかにし、緩み切った組織を早急に立て直すべきだ。

 特定秘密は防衛や外交、スパイ防止、テロ防止への影響が著しい機密情報で、2014年施行の特定秘密保護法に基づき、適性評価を受けた人しか取り扱いができない。

 22年に1等海佐が「日本周辺の情勢に関する収集情報」をOBに漏らしたとして、初めて同法違反容疑で書類送検され、懲戒免職になった。防衛省は再発防止検討委員会を設置し、昨年3月に秘密を保全する教育の徹底などを打ち出していた。

 それにもかかわらず、今年4月に護衛艦で適性評価を受けていない隊員1人が特定秘密を扱う任務に就いていたことが分かった。今月に入り複数の護衛艦でも判明し、酒井良海上幕僚長は引責辞任の意向を示しているという。

 海自だけではない。陸自と空自、三つの自衛隊の一体的運用を担う統合幕僚監部、防衛省の部局でも同様の疑いが持たれている。極めて深刻な事態である。

 なぜ、特定秘密の漏えいや不適正な管理が繰り返されるのか、詳細な検証が必要だ。違法な運用が自衛隊と防衛省で広がっているとすれば、組織として特定秘密への認識が甘過ぎる。

 海自潜水艦の乗組員と取引企業との癒着は開いた口がふさがらない。

 海自の潜水艦修理を請け負う川崎重工業が下請け業者との架空取引で裏金をつくり、乗組員との飲食費、乗組員に提供する商品券代などに充てた疑いがある。

 裏金づくりは遅くとも6年前に始まり、総額は少なくとも十数億円に上るという。期間の長さから、常態化していたと考えられないか。

 木原稔防衛相は特別防衛監察を行うと表明した。厳正な監査を求める。川重も調査内容を公表すべきだ。

 政府は厳しさを増す安全保障環境を理由に、23年度から5年間の防衛費を総額43兆円に増額する。昨年6月には、国内の防衛産業を活性化するための生産基盤強化法が成立した。

 防衛産業は機密性と専門性が高く、一握りの企業だけが受注できる分野がある。潜水艦は川重と三菱重工業の2社が製造し、修理も担う。修理に関する川重との契約額は年間百数十億円に上る。

 特定企業との関係が親密になり過ぎる懸念は以前から指摘されていた。肥大化する防衛予算がいいかげんに使われてはならない。

 政府と国会はこの不祥事を機に、増額の根拠が不明瞭だった防衛予算の精査と執行管理を強化すべきだ。