「人の死を願うのはしんどい」遺族はみな死刑判決を望むのか、浮かぶ多様な思い

AI要約

遺族や裁判員が京都アニメーション放火殺人事件での死刑判決に対し、それぞれ異なる感情を抱いている。

被告と遺族が直接会い、被告の謝罪を受けた遺族は、死刑判決よりも救いを感じている。

量刑の行方に関心を持たず、被告が反省し救われることを願っている遺族がいる。

「人の死を願うのはしんどい」遺族はみな死刑判決を望むのか、浮かぶ多様な思い

 京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)への死刑宣告から1カ月がたった。最愛の人を残虐な方法で奪われた遺族、重い決断を下した裁判員らは、究極の刑罰とどう向き合い、受け止めたのか。連載「理由」第5部では、死刑と接点が生まれた人たちを訪ね、改めて極刑の意味を考えた。

 遺族の多くが極刑を望むことは、至極当然だ―。

 京都アニメーション放火殺人事件で青葉真司被告に死刑を宣告した京都地裁判決は、量刑理由の一つに処罰感情を挙げた。法廷で意見を述べた多数の遺族が「命でもって罪を償って」「万死に値する」と求めたからだ。ただ、遺族の言葉に改めて耳を澄ますと、決して一様ではない心模様が浮かぶ。

 「刑が減軽されなくて、良かった」。犠牲になった寺脇(池田)晶子(しょうこ)さん=当時(44)=の夫(51)は地裁で判決を見届け、胸をなで下ろした。精神状態を理由に、被告が極刑を免れる事態をずっと恐れてきたからだ。

 死刑制度には肯定的だ。「身近な人が殺されて、つり合う罰がないのはおかしい」。以前は刑を執行する刑務官の負担を考えて疑問もあったが、遺族の立場になると理屈では割り切れなくなった。

 ただ、極刑に複雑な心情を漏らす。4年半前に失った家族の日常は戻らず、喪失が癒えることもない。公判では自ら「刑法が定める最も重い刑罰」を求めたが、「誰かの死を願うことはしんどいよ」。

 夫は判決直後の2024年1月末、大阪拘置所(大阪市)で青葉被告と2度面会した。アクリル板越しに数十センチの至近距離。計40分の会話で妻に言いたいことを問うと、被告は深々と頭を下げて、「本当に申し訳なかったです」と3回繰り返した。

 直接聞いた謝罪の言葉は不思議と心のもやを晴らした。「彼なりに本心から謝っていたと思う。僕にとっては、死刑判決よりも救いになった」

 被告が控訴し、大阪高裁に審理の舞台は移るが、夫は量刑の行方に関心を寄せない。「死刑になったからこそ、感じられる命の重みもあるはず。反省を深めてくれれば、それでいい」。もう、被告と会う必要は感じていない。