【社説】首相の酷暑対策 一貫性なきばらまき再開

AI要約

政府が再開した電気・ガス料金の負担軽減策は、効果が疑わしいとの指摘がある。

富裕層や大企業も恩恵を受ける一律の負担軽減策は逆進性があるため、見直す必要がある。

生活困窮世帯を対象に絞り込んだ方が政策効果が高まり、良い政策へと改善できる。

【社説】首相の酷暑対策 一貫性なきばらまき再開

 家計の負担を軽減すれば、支持率が上がると思っているなら勘違いも甚だしい。目的が曖昧で、効果も疑わしい政策は見直すべきだ。

 政府は5月使用分を最後に終えた電気と都市ガスの料金負担軽減策について、8月分から10月分までに限って補助金を再開すると決めた。経済産業省によると、電気・ガス料金は標準世帯で8、9月分が計2125円、10月分は計1300円安くなる。

 物価高の中、国民が酷暑を乗り切るための緊急支援として、岸田文雄首相が先月21日の記者会見で突然表明した。

 従来の負担軽減策は、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに高騰したエネルギー価格の激変緩和措置として始まった。液化天然ガス(LNG)や石炭の価格がほぼ元に戻ったため終了する、と政府は説明してきた。

 需給や価格動向に大きな変化はないので、再開する必要はない。事実上の方針転換である。政府の姿勢が大きくぶれたのは明らかだ。

 酷暑対策と言いながら7月分が対象外なのは、事業者の準備に1カ月程度かかるためだという。実際は生煮えの政策を首相がトップダウンで決めてしまったからだ。政府内や与党とも十分な調整をしていなかった。

 歴史的な円安で物価上昇が続き、国民の生活が厳しくなっているのは確かだ。年金世帯や低所得世帯はとりわけ苦しい。生活費を切り詰めるためにエアコンを使わず、熱中症で体調を崩したり、命を落としたりする人が出ないように対策を講じるのは当然だ。

 ただ電気・ガス料金の一律の負担軽減は、生活弱者向けの対策とは言い難い。

 富裕層や高収益の大企業も対象で、広い家に住み、電気料金を気にせずエアコンを使う富裕層ほど恩恵が大きくなる。ばらまきと批判されるのは、こうした逆進性があるためである。

 家庭の電力消費量の分布を見るとよく分かる。多い方から約3割の世帯が全体の6割超を消費している。家庭向け補助金の6割が富裕層側に回る。むしろ富裕層支援策と呼んでいいくらいだ。

 生活困窮世帯に対象を絞れば政策効果は大きく、財政支出も抑制できる。これが本来あるべき政策ではないか。

 一律の料金抑制で電気やガスの消費量が増え、LNGや石炭の輸入量が増加すれば円安が進む要因にもなる。さらなる物価高を招く恐れのある悪手だ。

 首相の肝いりで定額減税が始まった。借金を財源に全国民にばらまく政策で、恩着せがましいと不評である。

 先の記者会見で首相は、秋には経済対策をまとめ、物価高騰に苦しむ年金世帯や低所得者への給付金支給を検討する意向を示した。

 9月の自民党総裁選を意識しているのだろう。場当たり的な政策、言動はもはや国民から見透かされている。