「なぜ殺されたのか」働き者の母と優しい兄…大分県宇佐市の強盗殺人事件、裁判ノートは3冊目に

AI要約

79歳の山名高子さんと、51歳の長男が殺害され、現金約9万円が奪われた事件で、裁判員裁判の判決が言い渡される。

次男は、事件後の苦悩や真相解明を願って公判を見守り、被告の死刑求刑についても仏前に報告した。

裁判では被告の犯行を巡る証言が対立し、裁判員にとって重い判断が迫られる状況となっている。

 大分県宇佐市で2020年、山名高子さん(当時79歳)と、長男の博之さん(同51歳)親子が殺害され現金約9万円が奪われた事件で、強盗殺人罪などに問われた会社員佐藤翔一被告(39)の裁判員裁判の判決が2日、大分地裁で言い渡される。判決を前に高子さんの次男(54)が読売新聞の取材に応じ、事件と判決への思いを語った。(山口覚智)

 「母はゴルフ場やレストランでパート仕事にいそしむ『働き者』で、兄は『あれはいるか、これはいるか』と世話を焼いてくれる優しい人だった」。次男は2人が暮らしていた実家で語った。

 20年2月、刺殺された高子さんと博之さんの遺体が実家で見つかった。次男は、連絡を受けて駆けつけた警察署で変わり果てた2人と対面した。「2人の表情は苦痛でゆがんでいるように見えた」と振り返る。

 「なぜ殺されたのか知りたい」。発生から4年3か月を経て、今年5月にようやく始まった公判。被害者参加制度を利用して審理を見守り、書き留めたノートは3冊目に入った。意見陳述では証言台に立ち、「何年たっても『なぜ、どうして』の繰り返しだ」と苦悩する胸の内を明かした。

 事件後、住人がいなくなった実家の庭は草木が生い茂るようになった。「母ちゃんが悲しむな」。今年4月に自身の家族と離れて実家に移り住んだ。

 毎朝、高子さんと博之さんの仏壇の水を替え、線香を上げる。公判では被告側は起訴事実を否認しているが、6月17日の結審後には、仏前に死刑が求刑されたことを報告した。判決の日も裁判所に足を運ぶつもりだ。「真実が明らかになってほしい」。そう願っている。

 公判では佐藤被告が犯人か否かが最大の争点となった。直接的な証拠がない中、双方の主張は対立。検察側は死刑を求刑しているのに対し、弁護側は無罪を訴えており、裁判員らは重い判断が迫られる。

 検察側は、動機について160万円超の借金を挙げ、被告は事件翌日に消費者金融に約1万円を返済していたと指摘。被告の車からは高子さんとDNA型が一致する血痕が検出されたことなど間接証拠を積み上げた。

 弁護側は、被告の借金は母親の援助を受けられる状況にあったと反論。被告の車から被告でも被害者でもない第三者の血痕が発見されたことを踏まえ、「第三者による犯行をうかがわせる」などと主張した。