入ったお金は酒に消え、ネクタイ一本でやりくり…伊藤忠商事・九代目社長の「破天荒すぎる日々」

AI要約

丹羽宇一郎さんは若いころからお金に無頓着で、財布が空っぽになると母や妻にお金をせがんでいた。結婚式場の費用も誰が払ったのか覚えていないほどだった。

お金を貯め込むことに興味がない丹羽宇一郎さんは、生活に必要なお金を得るためにお金に執着しない方針を貫いている。

若いころは洋服や靴下などもケチをつけ、ネクタイ一本を貰うことで嬉しい思い出となったこともある。給料の半分は飲み代や本代、残りは寮費に消えていた。

入ったお金は酒に消え、ネクタイ一本でやりくり…伊藤忠商事・九代目社長の「破天荒すぎる日々」

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元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。

※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。

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 家計のことは妻に任せ、自分は月々の小遣いのなかで交際費や趣味のお金などをやりくりしている、という男性は多いと思います。

 私も基本的に同じですが、月々の小遣いをやりくりする才覚はなく、財布の中身が心細くなってくると、そのつど「お金箱」から勝手に取り出します。関心があるのは自分の財布の中だけで、我が家の財政がどうなっているのか何もわかりません。

 大学時代は母から必要なときにお金をもらっていましたが、すぐに酒代で消えました。たまにアルバイトでお金が入ると嬉しくなって、「おい、今日は俺がご馳走するぞ」と友達を誘って呑みに行き、あっという間になくなってしまうので、また「お母さん」と言って手を出す。そのお金もすぐ使ってしまうという繰り返しでした。

 就職して東京に出てからも、給料をもらうとすぐに全部なくなりました。当時の飲み屋はツケがきいたので、給料の半分はその支払いと本代に消え、半分は独身寮の寮費に充てる。すると持ち金はなくなりますが、食事は独身寮で出るので不自由は感じませんでした。

 格好に無頓着の私は新しい服を買う余裕がなくても平気、夏も冬も同じ背広一着とネクタイ一本で過ごしていました。三六五日、ずっと同じ汚れたネクタイをしているので、見かねた同僚の女性社員が「可哀想だから」と、ネクタイを一本買ってくれたことが嬉しい思い出として残っています。

 靴下は寮で同部屋の社員と適当に使い合っていました。洗濯して干しっぱなしにするうちに片方だけどこかへいってしまうこともあり、まともに左右が揃っているのは五足だけ。ステテコは、ときどきにおいを嗅いでは裏返してはいていました。昔からそういうことは母親まかせで、独身寮にいた頃は誰も面倒をみてくれず、ひどい状態だったのも当然です。当時交際中だったワイフは名古屋にいて、たまに東京で会えば、そのありさまに驚愕していました。

 こんな調子なので、結婚するときも貯金はゼロ。いまだに結婚式場の費用を誰が払ったのかよくわかりません。披露宴のあと、母がワイフに、

 「すみませんね。この子は本当にお金に無頓着だから、それだけはきちっとしておいてね」と頼んでいたことを覚えています。

 財布が空っぽになると、結婚前は母親に、結婚後はワイフに対して「お金ちょうだい」と言って手のひらを差し出し、たいして多くもない小遣いをもらう――。そういう生活に慣れてしまったため、私にはお金に対する執着がありません。お金を貯め込むことに一所懸命になる生活は、今も昔も私の性には合いません。

さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。