ホン・サンス監督「WALK UP」…韓国の映画名人が描く「あがり」のない人生

AI要約

韓国のホン・サンス監督が手掛けた28作目の映画「WALK UP」は、地上4階・地下1階建ての建物を舞台に主人公の男の人生の変化を描いている。

映画監督ビョンスが娘とともに建物を訪れ、そこで起きる出来事を通じて、人生の移り変わりが描かれる。

物語は全編モノクロームで、4章構成になっており、階を上がるごとに主人公の状況や周囲の人々が変化していく様が描かれる。

 韓国のホン・サンス監督は多作の映画名人。登場人物たちのスライス・オブ・ライフ(人生の一コマ)を繰り返し映画にしながら、男というもの、女というもの、人というものを描いてきた。が、28作目の長編「WALK UP」ほど見ていて身につまされた映画はない。舞台は地上4階・地下1階建ての瀟洒(しょうしゃ)な建物。主人公の男が階段をあがるたび、人生はうつろう。(編集委員 恩田泰子)

 主人公は、中年の映画監督ビョンス(クォン・ヘヒョ)。彼が、娘(パク・ミソ)を連れて、インテリアデザイナーとして活躍する知り合いの女ヘオク(イ・ヘヨン)の所有する建物を訪ねるところから物語が始まる。

 ヘオクは2人を歓待する。建物は1階がレストランで2階もその関連。3階と4階は住居などとして貸している。地下はヘオクのためのスペース。全体的にしゃれている。

 ビョンスの訪問の主眼は、大学で美術を学んだ娘のキャリア相談だが、ヘオクの関心はもっぱらビョンスに向いている。家庭生活はぐだぐだながら映画監督としては絶好調。ヘオクの目には、おしゃれな建物にふさわしい業界人と映ったのか、なんなら住んでほしいと彼に言う。やがて彼は住人となる。

 映像は全編モノクローム。物語は4章構成。1階から始まり、章ごとにフロアが変わる。階が移るたび、ビョンスの状況や付き合う女は変わっている。映画監督としての立ち位置もなんだか微妙になっている。人生の階段を上がっていたはずなのに、持ち上げられてもきたのに、気がつけば、かやの外。

 突然、それまで通りにいかなくなってしまう時期が、人生にはある。そんな時期を、この映画は、たんたんと描き出す。ギターをつまびき、ワインをたのしみ、映画や人生について語り合っていた男が、いつの間にか、焼酎と焼き肉と高麗人参(にんじん)に流れ、所帯じみた話をしている。大人のいい女としてふるまっていたヘオクも、いつの間にか俗物ぶりを隠せなくなっている。