「よそ者」の中国人移民が「町長候補」に推薦!…差別に晒されながらも模範市民として生きるある中国系カナダ人の半生

AI要約

地球上の中華料理店をめぐる冒険、華人移民の生活やアイデンティティ、地元コミュニティについて探る。

カナダの小さな町で活躍する華人移民の姿や地域社会への貢献に焦点を当てる。

ジムという華人移民労働者の人生と地元愛、町への奉仕精神に迫る。

「よそ者」の中国人移民が「町長候補」に推薦!…差別に晒されながらも模範市民として生きるある中国系カナダ人の半生

 北米中華、キューバ中華、アルゼンチン中華、そして日本の町中華の味は? 北極圏にある人口8万人にも満たないノルウェーの小さな町、アフリカ大陸の東に浮かぶ島国・マダガスカル、インド洋の小国・モーリシャス……。 世界の果てまで行っても、中国人経営の中華料理店はある。彼らはいつ、どのようにして、その地にたどりつき、なぜ、どのような思いで中華料理店を開いたのか? 

一国一城の主や料理人、家族、地元の華人コミュニティの姿を丹念にあぶり出した関卓中(著)・斎藤栄一郎(訳)の

『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。食を足がかりに、離散中国人の歴史的背景や状況、アイデンティティへの意識を浮き彫りにする話題作から、内容を抜粋して紹介する。 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』連載第14回

 『「名前を捨てるのなんて大したことじゃない」…なりすましでカナダに渡った華人達が語る「興味深い文化」』より続く

 1920年代にはフィンランドやノルウェーから多くの移民が訪れた。最近はギリシャやベトナム、イラクからの移民もいる。

 クラレンスが解説する。

 「中国人移民はこの土地に留まって、自分たちが誇れるものを生み出したいと考えるんだ。そこに彼らの大きな関心があるんだよ。ほかの移民とは大きく違う点だね」

 ジム自身は自分のことを華人と思っているのか、それともカナダ人と思っているのか。

 「自分では、中国系カナダ人と言ってるね。それに、僕の出生届にもカナダで生まれたと書いてあるよ」とウインクしてみせた。「僕は僕。ほかの誰でもない。カナダ人でも中国人でも日本人でもイタリア人でもいい。なんだっていいんだ。僕は僕なんだから」

 カナダ太平洋鉄道の鉄道建設に参加し、そのまま定住した中国人移民労働者は、偏見や差別に翻弄されながらも、模範的な市民となった。だが、この点についてジムは「地域社会に奉仕するのが僕らの仕事」として、人生の特別な使命だと説明する。

 「同じ町で暮らす人々のために自分から働きかけなきゃいけない。奉仕するのが務めなんだよ」

 また、小さな町のほうが人々と打ち解けやすいとも言う。

 「都会じゃ隣に誰が住んでいるのかわからないことも多いよね」

 客も助けてくれる。客同士が互いに気遣うし、店の世話までしてくれる。コーヒーポットが空になると、気づいた客が淹れてくる。お代わりのコーヒーを取りに行ったついでに、ほかの客にもお代わりはどうかと声をかけて回るといった具合だ。

 アウトルックに対するジムの地元愛は深い。地元の高校のアイスホッケーチームの運営資金集めに、レストランで募金活動をしたこともある。ホッケーの道具が高くて買えない生徒がいれば、ジムは中古用具を買い与える。スケートリンクに人工の氷を張り、遠征試合の移動用バスのガソリン代を捻出するための資金集めにも奔走した。

 彼を町長候補に推す声も多かったが、ジム自身にその気はなかった。そのことを常連のロイドに言うと、笑い出した。

 「柄でもないよ。彼が政治に興味がないわけじゃないけど、本人が混乱するんじゃないかな。自分がどの党だったか忘れちゃうほどだから。それに、何か口を開けば、余計な争いが勃発するでしょ」

 町長になろうがなるまいが、ジムはアウトルックの顔だった。本人もそう思っている。

 「この町で60年以上。開拓者だよ。だからアウトルックは自分の庭みたいなものだ。自分のものだね」

 『「アル・カポネ」の潜伏場所は中国人労働者によって作られていた!? …「壮絶な中国人排斥」が生んだ「秘密の地下道」』へ続く