「名前を捨てるのなんて大したことじゃない」…なりすましでカナダに渡った華人達が語る「興味深い文化」

AI要約

世界各地に広がる中国人経営の中華料理店を取材した『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。家族や地元コミュニティの姿が描かれており、食を通じて離散中国人の歴史やアイデンティティが浮かび上がる。

同じ姓の人々が親戚関係にある中国の村の様子や、移動による名前の順序変化について述べられる。作者の祖父が香港で生まれた広東省出身であり、関姓の家系の起源を九江村に辿ることができる。

方言の発展や地域間の理解不能さについても触れられ、物理的・社会的な移動の制約がその原因であることが語られる。

「名前を捨てるのなんて大したことじゃない」…なりすましでカナダに渡った華人達が語る「興味深い文化」

 北米中華、キューバ中華、アルゼンチン中華、そして日本の町中華の味は? 北極圏にある人口8万人にも満たないノルウェーの小さな町、アフリカ大陸の東に浮かぶ島国・マダガスカル、インド洋の小国・モーリシャス……。 世界の果てまで行っても、中国人経営の中華料理店はある。彼らはいつ、どのようにして、その地にたどりつき、なぜ、どのような思いで中華料理店を開いたのか? 

一国一城の主や料理人、家族、地元の華人コミュニティの姿を丹念にあぶり出した関卓中(著)・斎藤栄一郎(訳)の

『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。食を足がかりに、離散中国人の歴史的背景や状況、アイデンティティへの意識を浮き彫りにする話題作から、内容を抜粋して紹介する。 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』連載第13回

 『「中国系というだけで」…ある華人の明るい振る舞いに隠されたカナダの「闇」と「差別意識」』より続く

 フォンとジムはいとこ同士だが、2人を見ているとまるで双子のようだ。偶然にも2人がなりすましたのは、どちらも周という姓の人物だった。

 ジムの本名は、周(チョウ)同光(ハンコン)(訳注:「同」をハンと発音するのは、台山語発音のため)。書類上の名前が周家谷である。中国人は、姓、名の順に名乗るが、他の国に移動したとたん、名、姓の順にひっくり返ることが多い。

 「うちの村には、周という姓が多いんです」とフォン。

 ジムが続ける。

 「そうそう、同じ村で周ならみんな親戚関係だね」

 中国では、先祖代々同じ村に住み着き、大家族に発展することも珍しくない。だから、村の中で同じ姓の人々が祖先をたどっていくと、最初に村に定住した人物に行き当たることが多い。

 私は、英国植民地時代の香港に生まれた。関(クワン)姓の祖父は、広東省広州からそれほど遠くない南海県(訳注:現・仏山市南海区)の九江(ガウゴン)という村の出身である。

 九江村に最初に定住した関姓を名乗る人物は、750年ほど前の南宋時代に中国中央部から移り住んだと言われている。

 原籍地の祠堂(しどう)に保管されている家系図によれば、その最初にやってきた人物から20代も家系をたどることができる(残念ながら系譜にあるのは男子だけで、各代の長男へと引き継がれている)。

 広東語のように同じ語派の方言であっても、ずいぶん異なった発展の道をたどり、たとえ川の両岸の村同士でも相互に理解できないほど独自に発展することもある。

 物理的、社会的に移動できないことが原因だ。私の村の出身者は九江の方言「九江話」を話すが、他の地域の出身者にはほぼ理解不能だ。

 そういうわけで、ジムが話す台山語を理解するには、同郷のクォイの出番となるのだ。