小笠原諸島・南鳥島沖のマンガン採掘、海洋環境アセスメントのモデル構築を/私たちに身近な生物多様性(40)

AI要約

小笠原諸島・南鳥島沖の深海に希少金属を含むマンガン団塊の有望な集積地が発見され、2025年に採鉱の実証実験を行う計画がある。

海洋生物の多様性や深海生物の解明が進展中であり、資源開発と生物多様性保全の調和を模索している。

2030年目標では海洋の30%を生物多様性保全のための保護区にし、日本が海洋保護区の設定を主導するなど、海洋開発の指針として期待されている。

小笠原諸島・南鳥島沖の深海に希少金属を含むマンガン団塊の有望な集積地が発見された。2025年には採鉱の実証実験を行う計画だ。その際、並行して進めてもらいたいのは海洋における環境アセスメントモデルの構築だ。(生きものコラムニスト=坂本 優)

哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などは、ひとまとめにして「脊椎動物門」と分類される。「メイオベントス」においては、今世紀に入ってからも新たな「門」レベルの生物の記載が相次いでいる。(注:メイオベントス/海底に生息する生物の総称をベントス(底生生物)といい、その内、1mmのふるいを通過して32μm前後の細かいふるいで採れる底生生物のこと。主に微細藻類、有孔虫類、線虫類などがある。/海洋生物多様性保全戦略用語集から)

そしてメイオベントスより更に微細な生物の世界があり、新たな海域を調査すると次々と新種が発見される。

海底火山の熱水鉱床周辺には、酸素の依存しない化学合成生物の世界が広がっているがその生物たちの生態系、他の生態系とのかかわりなど解明されていないままだ。

海洋生物多様性、とりわけ深海におけるその実態の解明は陸域や内水域に比べはるかに遅れている。おそらくその多様性の仕組みや機能などは、今後膨大な情報を集積し、AIを活用し統計的な手法も駆使しなければ概要すら把握できないのではないだろうと推測される。

このような現状を踏まえつつ、いかにして深海資源開発と生物多様性保全との調和を図るか。海洋、特に深海における資源開発における環境アセスメントのモデルをつくるか、南鳥島沖のマンガン団塊の商業的利用は、その実践の場でもあるのだ。

2022年にカナダのモントリオールで開催された生物多様性条約COP15で採択された2030年目標では、海洋の30%を生物多様性保全のための保護区とすることを目指している。

海洋保護区は、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議COP10において、議長国としての日本が中心となって提唱し、海域の10%を保護区とすることを2020年に向けた世界共通の目標としたものだ。

この目標は達成されていないが、その重要性についての認識は深まり、30%と目標を拡大したうえで取り組みが継続されている。

海洋大国として、海洋保護区の設定を主導した日本として、今回の採掘事業化にあたっては、今後の海洋開発の指針となり、深海の生物相の解明にも資するような環境アセスメントモデルの構築実践を大いに期待している。