ChatGPTの発話の背後に人間はいるのか? 川添愛×川原繁人×三木那由他

AI要約

言語学者として、作家として活躍する川添愛さん、音声学・音韻論の専門知識をいかしてジャンルを超えた活動を続ける川原繁人さん、言語哲学の知見をテーマとしたエッセイが支持を集める三木那由他さんの鼎談イベントが行われました。

川原さんと川添さんは言語学の研究者でありながら、研究の成果を社会に生かすことに関心を持っており、そのバランス感覚や応用性について議論が行われました。

また、三木さんのエッセイには自身の言語哲学に対する考えや性的マイノリティに関する意識の高まりが反映されており、言葉とコミュニケーションについて新たな視点を提示しています。

ChatGPTの発話の背後に人間はいるのか? 川添愛×川原繁人×三木那由他

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言語学者として、作家として活躍する川添愛さん。音声学・音韻論の専門知識をいかしてジャンルを超えた活動を続ける川原繁人さん。言語哲学の知見をテーマとしたエッセイが支持を集める三木那由他さん。それぞれの立場から「ことば」をめぐって第一線で活動を続けている3人の鼎談イベントが、先日、ブックファースト新宿店で行われました。その内容を再編集して2回にわたってお届けします。前編では、いま関心を集めるChatGPTについての議論も…。

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 川原 この鼎談のきっかけについてお話しいたしますと、『言語学的ラップの世界』が発売になって担当編集者と書店をまわっていたときに、三木那由他さんの『言葉の風景、哲学のレンズ』を知って読み始めたら面白くて止まらなくなってしまったんですね。そこで、著者の三木さんと話してみたい、せっかくなら、川添愛さんも巻き込んじゃえということになり、おふたりにお声がけして、実現に至りました。

 川添さんと私は言語学、三木さんは言語哲学を研究していますけれども、自分がやっている研究を学問の世界だけの話にせず、社会につなげることはできないか、という思いを共有していると感じていますので、まずその話から始めたいと思います。川添さんと私は同じ研究畑にいますが、言語学の知見を世の中にいかそうとするとき、「他の研究者から怒られるのでは……」という恐ろしさがありませんか? 

 川添 学問の世界の内部にいると、外の世界でその分野の知見を使うといった発想は出てきにくいような気がします。論文を書いていたら、たった1行書くだけでも、文献10個ぐらいあたったりしなきゃいけないこともあるじゃないですか。研究者の目線で見たら、「こんないい加減なことは言っちゃいけないんじゃないか」みたいに、かなり自己規制がかかりますよね。

 川原 その意味では、川添さんの新刊『世にもあいまいなことばの秘密』を読んでいてすごいなと思ったのは、言語学的な現象を面白く紹介したり分析したりするだけでなく、こうしたら実際の問題を解決できますよ、という具体的な提案までたどりついているところです。同業者の目線からすると、大きな一歩を踏み出したな、という印象です。

 川添 そこに着目していただいたのは嬉しいです。ただ、書き方には気を遣いました。「言語学者が勧めるメソッド」みたいな言い方をしない。そうなると一気にうさん臭くなってしまうので。書き方は今も模索してるところです。

 三木 川添さんは『ふだん使いの言語学』でも、日本語の多義性や曖昧性の説明をしながら、それをなくした文章にするには、といったことも書かれていますよね。自分が文章を校正するときに考えていることが言語化されていて、興味深かったです。

 川添 ありがとうございます。

 川原 言語学は、正しい日本語の使い方を研究する学問だと勘違いされがちなんですね。そうではなくて、あくまで観察と分析を目的とするとする学問であって、日本語の使い方はこうであるべしといった規範的なことは言わないという信念がある。その信念と実社会への応用性を両立させるためには、けっこうなバランス感覚が必要とされるのかなとは思いますね。三木さんのエッセイを読んでいると、「自分ごと」として言語哲学をやられている感じがして、そこがすごく魅力的だと思います。

 三木 ありがとうございます。私はそれまで論文や学術書しか書いてこなかったところに、依頼されてエッセイを書き始めたんですね。たとえば哲学者を取り上げて面白いエピソードを書くやりかたもあると思いますが、そういったことは詳しくないし、自分のことを言語化したらこうなるかなと思いながら書いている感じです。

 川原 言葉を使ったコミュニケーションの具体例を分析しながら、仲間へのエールも含めて、こういうふうに考えられるよね、こういう見方もあるよね、といったアプローチをなされていますよね。

 三木 そうですね。でも、最初はあまりそういったことは想定していなくて。書いているうちに、自然にフェミニズムや性的マイノリティの話にも触れるようになっていった感じです。そうしたら、自分が経験したことが言語化されている、といった感想をくださる方がちらほらいたんですね。それで、性的マイノリティの人も読んでくれているのではと意識するようになって、問題の正解は出せないけれども、私なりに言葉にしたらこういうふうな感じになるというのが伝わったらいいなと、思うようになりました。