「親の所得」が「子どもの学力」に影響する「残酷な事実」…所得の高い家庭の子どもは学力が高かった…!

AI要約

現代の日本の構造について解説した記事。日本の塾制度や学力差について詳細に説明されている。

欧米との教育制度の違いや塾に通う生徒の学力向上について考察されている。

所得格差や教育バウチャーの可能性など、塾制度に関する改善案も述べられている。

「親の所得」が「子どもの学力」に影響する「残酷な事実」…所得の高い家庭の子どもは学力が高かった…!

 現代の「日本の構造」、どれくらい知っていますか? 

 日本の共働き世帯数、日本人の労働時間、日本の労働生産性、事業所の開業率……

 『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』では、橘木俊詔氏が少子化、格差、老後など、この不安な時代に必要なすべての議論の土台となるトピックを平易に解説します。50の項目で、日本の「いま」を総点検! 

 ※本記事は、橘木俊詔『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』から抜粋・編集したものです。

 欧米の人に向かって日本の教育制度を説明するときに、もっとも理解してもらえないのは塾である。一部の高校生と浪人生の通う予備校も学校外教育なので塾と性格が似ているが、ここでの主たる関心は小・中・高校生の通う塾である。

 なぜ欧米の人が日本の塾を理解できないのか、それらの国にほとんど存在していないからである。返ってくる質問は「学校教育が不充分だから、特に生徒は学校の外で夜に勉強せねばならないのか」である。「まず学校教育を改良するのが社会なり国家の役割ではないか」という問いが投げかけられる。

 塾という制度は韓国、中国、日本を中心にした東アジアに特有な制度であり、特にこれらの国は受験戦争が激しいので、「受験に備えて生徒が塾に通って勉強するのだ」と回答するが、欧米人には納得してもらえない。

 例えばフランスは日本以上の学歴社会であるが、塾はない。入試の格別に困難な、大学より格上のグランゼコール(官僚、技術者、教員などのエリート養成校)を受験する場合でも、高卒後は学校(具体的にはリセ〈高校〉の上に併設された公立の入学準備学校)で勉強している。すなわち受験準備も学校でなされるのである。

 では、日本では生徒が何を目的として塾に通っているのかを表1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)で見ておこう。中学生と高校生に関しては、受験勉強が第1位である。小学生に関しては大都会における中・高一貫校への受験対策としての塾は存在するが、日本全体としては多くはない。

 興味があるのは、小学生にもっとも人気のあるのが英会話・英語教室であることである。英語が小学校教育にも導入され、学校外の受講が増えていると思われる。また、小学校の英語教育は不充分と考える親たちが専門の学校に行かせたいとの希望がある。

 もう一つの興味は、中学生において補習塾(すなわち学校教育の補習をおこなう)の人気が第2位、高校では第3位と高いことである。学校での勉強に充分ついていけないので、かんばしくない成績をなるべく上げたい、という目的と理解してよい。

 そうすると、塾に通う生徒の学力は通わない生徒より高いのかが次の関心となる。表2(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)は少し古いが通塾生と非通塾生のあいだで小学生と中学生の双方において、国語と算数(数学)の学力差があるのかどうかを示したものである。結果は中学校の数学で20点という大きな格差、国語で8.7点(ともに100点満点)の差があるし、小学校においても5点から6点の差があるので、塾に通う生徒は塾に通わない生徒よりも、学力は確実に高いということになる。

 『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』において、所得差による塾への支払い額の違いを示したので、所得の高い家庭の子どもの学力の高いことを予想させうる。

 現に最近の全国学力検査の結果によると、年収200万円未満の家庭の子どもと、年収1500万円以上の家庭の子どもとのあいだに、教科によっては20点以上の大きな学力差(100点満点)があると報告されている。この結果から、親の所得格差が子どもの学力差を生んでおり、その一つの理由が子どもの通塾率の差に帰せられると言えるのである。

 もとより子どもや生徒の学力差は、本人の生まれつきの頭の良さ、勉強という努力の程度、学校での教育の質にも依存するので、通塾率の差だけが学力差を生む要因ではない。

 さらに塾に通う子どもは、親の教育水準の高いことが多いので、能力の高い可能性があるかもしれず、かつ勉強に熱心に違いないと思われるので、それらの効果をも考慮して塾の効果を測定する必要がある。とはいえ、塾に通わない子どもよりも塾に通う子どもは、確実に特別の勉強をしているので、学力の高くなることにまちがいない。

 塾に通うことによる学力向上が確実だと、家庭の所得格差が通塾率に差を生じる背後の要因となるのである。

 一つの対策としては、教育バウチャーを公共部門が全家庭に配布して、すべての子どもが塾に通えるようにする案がある。もう一つ、塾をなくして、それらの先生を学校が常勤か非常勤で雇用して授業を担当してもらう大胆な案もありうるが、実現のハードルは高い。教員免許状の保持が日本における学校教員に必要だからである。