各国政府や企業も注目する課題解決のための概念、「ウェディングケーキ・モデル」とは?

AI要約

格差や分断、気候変動、環境破壊、人口減少などさまざまな社会課題が存在する中、サステナビリティの実現に向け新たな産業革命の兆しが見え始めている。

社会内の経済格差が広がる中、先進国内での格差や社会分断、政治の二極化が懸念されている。特に弱者同士の対立が顕著であり、認識のずれや将来不安も社会に影響を与えている。

ウェディングケーキ・モデルという概念では、環境層、社会層、経済層の3つを組み合わせ、持続可能な社会を目指す上でそれぞれの層が安定的に発展する必要性が示されている。

 格差や分断、気候変動、環境破壊、人口減少…。さまざまな問題が山積する中、「サステナビリティ=人類社会の存続」の実現に向け、エネルギー革命やサーキュラーエコノミー、AIの活用など「新たな産業革命」の兆しが見え始めている。その大波が産業や雇用、社会や教育のあり方を激変させることは間違いない。本連載では、『データでわかる2030年 雇用の未来』(夫馬賢治著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。データをもとに将来の社会を展望しつつ、来たるべき変化にどう備えるべきかを考える。

 第1回は、サステナビリティの実現に不可欠な概念、「ウェディングケーキ・モデル」について解説する。

■ 各国で広がる「弱者VS弱者」の構図

 社会課題に対する懸念も大きくなっている。とりわけ経済格差は、先進国と発展途上国の間以上に、先進国の内部で広がっており、先進国でも経済格差に対する関心が広がりつつある。日本国内でも、新興国からの訪日観光客が増加する一方、日本人が海外旅行をする経済的余裕は乏しくなり、日本人が裕福だという実感がなくなってきている人も少なくない。

 若者の間では、政治分断や社会分断への関心も高い9

。社会対立といえば、以前は資本家と労働者が対立する階級闘争を指したが、最近では、政府の限りある予算を、経済弱者間で奪い合う「弱者対弱者」という構図が顕著になった。「公金チューチュー」という言葉はその象徴とも言える。 このような社会現象を、社会学者の伊藤昌亮教授は「明確な弱者と曖昧な弱者の対立」と呼称している10

。高齢者、障がい者、失業者、女性、LGBTQ、外国人労働者、戦争被害者といった以前から「明確な弱者」がリベラル政党を支持するのに対し、新たに弱者になった人々はリベラル政党を批判し、保守政党や極右政党を支持するようになった。こうして各国で政治の二極化が進行している。 他にも、偽情報・誤情報の蔓延や、サイバー攻撃などを課題として懸念する声もある11

。将来不安に関しては、状況を現実以上に悪いと思い込んでしまうという「バイアス効果」もあることも事実だろう12

。だがそれでもなお、私たちの未来に難題があることは否定しがたい。 9 Dominic Lenzi (2023) 「Hope, Pessimism, and the Shape of a Just Climate Future」Ethics & International Affairs. 37 (3)

 10 伊藤昌亮(2023)「曖昧な弱者とその敵意―弱者バッシングの背景に」調査情報デジタル

 11 Pew Research Center (2022) 「Spring 2022 Global Attitudes Survey」World Economic Forum (2024) 「Global Risk Report 2024」

 12 Max Roser & Hannah Ritchie (2018) 「Optimism and Pessimism」 https://ourworldindata.org/optimism-and-pessimism

■ 「ウェディングケーキ・モデル」という考え方

 こうして人類は、将来を悲観するようになってきている。この悲観を打破していくためには、それぞれの課題に真剣に向き合っていくしかない。

 さらに重要なことは、それぞれの課題をバラバラに捉えるのではなく、課題間のつながりを理解するということだ。そうでなければ、なにか一つの課題を解決しようとしても、それによって別の課題を悪化させてしまうかもしれない。こうして「ウェディングケーキ・モデル」(下図)と呼ばれる概念がスウェーデンで誕生した。

 ウェディングケーキ・モデルとは、世の中の状況を、「経済層」「社会層」「環境層」の3つに分類し、そのつながりを表現したものだ。まず土台に「環境層」が、真ん中に「社会層」が、最上部に「経済層」が配置されている。そして、全体が持続可能になるためには、各々の土台となる層が安定的に発展する必要があるということが示されている。

 しばしば私たちは、環境、社会、経済のうち、いずれかのみに焦点を当て、対策を検討しがちだ。実際に、各々の分野の専門家は分かれており、3つすべての観点を持ち合わせて議論されることは稀だ。