日本で唯一無二、バスと電車のデュアルモード!名古屋のガイドウェイバス「ゆとりーとライン」を知ってる?

AI要約

ゆとりーとラインは、愛知県の名古屋市と春日井市を結ぶ特別な乗り物であり、日本で唯一のガイドウェイバスシステムを採用している。運行開始は2001年であり、現在では周辺地域の交通インフラとして重要な存在となっている。

ガイドウェイバスシステムは高架専用区間と平面区間で運行が異なり、高架区間では電車として自動操舵される。そのため、専用の車両や安全対策が整備されており、乗客の満足度も非常に高い。

現在は名古屋市を中心に運行されているが、将来的に他の地域でも導入が望まれている。しかし、他の自治体での導入が難しい要因もあるため、技術やコストなどの課題もあり、今後の展望にはさまざまな検討が必要とされている。

日本で唯一無二、バスと電車のデュアルモード!名古屋のガイドウェイバス「ゆとりーとライン」を知ってる?

愛知県の名古屋市、春日井市を結ぶ旅客輸送サービス「ゆとりーとライン」をご存知だろうか。一見すると普通のバスだが、実は「ガイドウェイバス」と呼ばれる特別な乗り物であり、区間によっては電車として運行される、とてもユニークな交通システムだ。

2001年3月に名古屋ガイドウェイバス株式会社と名古屋市交通局、名鉄バス、ジェイアール東海バスの共同で運行を開始したが、23年経った今でも同じ形態の車両は日本全国でほかに事例がなく、唯一無二の存在となっている。

今回は、そんな「ゆとりーとライン」の導入経緯や、日本で第二の導入事例がない理由について、高架専用軌道区間(ガイドウェイバス志段味線)の管轄である名古屋ガイドウェイバス株式会社 総務課長・林史彦さん、施設車両課・田中淳さん、取締役 運輸部長・加藤友秋さんに話を聞いた。さらに、筆者の乗車レポートもお届け!

■名古屋市守山区志段味地区の開発計画に合わせ、2001年3月に運行を開始

ゆとりーとラインは、名古屋市の北東部から都心方面への混雑を緩和、そして名古屋市守山区・志段味地区の発展を支えるため、2001年3月に開業した公共交通機関である。そこで、日本唯一のガイドウェイバスシステム導入の経緯について、まずは総務課長の林さんに話を聞いた。

「ドイツやオーストラリアで先行事例がありましたが、国際特許の問題や法律の違いから、日本独自のシステムを開発することになったようです。ガイドウェイバスは電気施設や線路閉塞の仕組みを持たないシンプルなシステムですので運行コストが低く、それが導入する大きな要因となりました」

2024年現在、1日約1万2000人が利用しており、通勤・通学の多い朝は2分間隔で運行するなど、今や周辺地域の重要な交通インフラとなっている。なかでも、名古屋ガイドウェイバス株式会社が運行する高架専用軌道区間(以下、高架区間)には信号交差点がないので、遅延がほとんどなく安定性も高い。そのため、少しでも遅れると乗客から「何があったのですか?」問い合わせがくるほどだそう。

さらに、「通常のバスよりも非常に速くて快適です!」「車窓からの景色が素晴らしいです」といった声が多く寄せられており、地元住民や観光客を含め、乗客の満足度はとても高いようだ。

■バスと電車、両方の顔を持つガイドウェイバスシステムの仕組み

ゆとりーとラインは、平面区間のバスとして運行する際には運転手がハンドルを操作するが、高架区間では電車のように自動操舵となるため、ハンドルに触れてはいけないという。では、この独特なシステムがどのように作られているのか。施設車両課の田中淳さんに話を聞いた。

「屋根にハイブリッドバッテリーを積んだ一般的なハイブリッドバスと同様の方法で製造されていますが、前部と後部に『案内輪』を取りつけるスペースを確保するため、通常のバスよりもステップを2段階上げています。位置が高くなりますが、リフトがついているので車椅子の方でも安心してご乗車いただけます」

なお、高架区間でのさまざまなトラブルにも対応しており、雪が降った場合などにスリップしてタイヤがレールに当たらないよう、車両後方の案内輪で調整している。またタイヤがパンクすると高架区間では修理ができないため、前輪には中子式補助輪付きタイヤを搭載してパンクしても低速で走行できるようになっている。

加えて、田中さんは「エンジン故障など緊急停止した際は、後続車両が直前の駅で『推進棒』を積み、それを使って止まった車両を時速15キロほどで、モードインターチェンジに隣接する本社まで押していきます」と話す。このように臨機応変に対応できる装置がガイドウェイバスには備わっているが、多くの企業が関わっているため、車両の製造が簡単ではないそうだ。

■無人駅のホームに対しても、運転指令室から配慮が行き届く

ゆとりーとラインの高架区間には、「大曽根」から「小幡緑地」までの9駅があり、各駅のホームは相対式で上りと下りが明確に分かれている。また、全ての駅にエレベーターが設置されており、通路には乗客の利便性を考慮して屋根が設けられるなど、細部にまで配慮が行き届いている。そんな利用のしやすさや、ゆとりーとラインならではの安全対策に迫るべく、ここからは取締役 運輸部長の加藤さんに話を聞いていく。

「弊社の『運転司令室』で、高架区間の各駅ホームやガイドウェイバスの運行状況を一元管理しています。いつでも適切な指示や対応ができるよう、始発から終発まで常時スタッフが駐在し、強風の際には徐行運転を指示したり、高架専用道路に入ろうとするお客さまがいても音声で注意を呼びかけるなどして、安全輸送のための取り組みを徹底しています」

導入して23年、利用者は開業時から2倍以上に増え、地元の人や鉄道・路線バスのファンからも愛され続けているゆとりーとライン。しかしながら、ガイドウェイバスシステムがほかの都道府県で採用されない理由とは一体?

「実は、2000年ごろに名古屋と同様にガイドウェイバスの導入を検討していたいくつかの自治体がありましたが、いずれも頓挫してしまいました。高架構造物の建設や新しい交通システムの導入には、広い道路の整備やさまざまな課題を解決するための創意工夫が必要なのです。その点、名古屋にはかつて路面電車が走り、1985年からは名古屋市交通局が運行する『基幹バス』が都市部の道路の中央を走っており、そのノウハウも活かされています。また、名古屋は道路インフラが整っているからこそ、ゆとりーとラインや基幹バスが成り立っているわけです」

■唯一無二の存在ゆえに発生する課題も…ゆとりーとラインの今後

さらに、ガイドウェイバスが名古屋で導入できた理由について、加藤さんは「名古屋市守山区は16区の中で唯一地下鉄がない地域であり、志段味地区の開発を進めるためにも絶対に成し遂げなければならない、という先輩たちの熱い想いと地元の皆さまのご協力があったから実現したのです」と語る。しかし、唯一無二であるがゆえの課題もあるのだとか。

「私たちとしては、ほかの地域でもガイドウェイバスが導入されてほしいと思っています。現在、名古屋だけでの運行なので、今のままではこれ以上の発展が見込めません。また建設コストは地下鉄の4分の1程度であるものの、一度に最大で69人しか乗れないため、ランニングコストによって利益が出にくいのが現状です」

それでも、守山区志段味地区の交通インフラを支えているのはゆとりーとラインであり、それを前提に家を建てている人も多くいる。そうした人々の将来のためにも末永く運行を継続していくとのことだが、今後の方針についてはどのように考えているのか。

「現在、将来的な車両の更新について検討しているところです。ガイドウェイバスは日本唯一のシステムであり、田中からも言及があったかと思いますが、メーカーさんの事情もあり、現在と同じものはなかなか作れないんです。そのようななかで、現在、名古屋市役所で自動運転技術を用いた車両の導入を検討しています」

最後に、加藤さんは「高架区間の定時・定速走行の魅力もさることながら、秋・冬のシーズンは、高架を走行するガイドウェイバスならではの車窓からの景観が見どころなので、名古屋にお越しの際にはぜひご乗車ください」と締めくくった。

■取材後、ゆとりーとラインのガイドウェイバスに乗ってみた!

取材後しばらくして、林さんの案内で始発駅の「大曽根駅」から、ゆとりーとライン(ガイドウェイバス志段味線)に乗車してみることに。まず目に入った改札口。一見すると普通の鉄道駅と変わらないが、改札機はガイドウェイバスに設置されているものを使用している。林さんは「ほかの8駅はバス車内での精算となりますが、最も乗降車数の多い大曽根駅にのみ、混雑緩和のため改札口を設けています」と説明してくれた。

改札のあるコンコースを通り抜け、階段を上がると、ホームと転回場が広がり、少し先には「バンテリンドーム ナゴヤ(旧ナゴヤドーム)」が見える。筆者は「見晴らしがとてもよいですね!」と興奮気味。なお、高架区間では電車として運行するが、転回場で待機する際にはハンドルを使って指定の位置に停車するという、まさにバスと電車のデュアルモードだからこその柔軟な対応が可能だ。

景観に見とれている間にガイドウェイバスがホームに到着。乗車後、青信号が点灯し、動き出すとみるみる加速していき、あっという間に時速60キロに到達。これには筆者も「想像以上に快適です!」と驚きを隠せない。同時に車窓から見える名古屋の街が圧巻だったが、林さんは「加藤がお伝えしたとおり、これから秋、冬にかけてはもっとすごいです。特に冬は空が澄んでいて、長野県の御嶽山や、長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる乗鞍岳も見えるんですよ」と教えてくれた。

また、「ナゴヤドーム前矢田駅」から「金屋駅」までの4駅は2層式となっており、駅以外での利用用途も見込んだ建設がされている。ナゴヤドーム前矢田駅を例にあげると、ドームへと続くデッキと接続しているため歩道橋としても活用できるなど、利便性の高さも魅力のひとつだ。

スムーズな運行もあって、気づけば8駅目の「白沢渓谷駅」に。ホームの壁面には、地元の中学生が制作したモザイクタイルの作品が飾られており、地元との深い関わりを感じた筆者はほっこりとした気分になった。次の「小幡緑地駅」を過ぎると、高架区間の終わりを示すオレンジ色の遮断機が見えてきたので一時停車。案内輪を車体の下に収納して、運転手はハンドルを握る。ここからはバスとしての運行に切り替わり、名古屋交通局の管轄となる。

ちなみに、ゆとりーとライン沿線の守山区志段味地区方面には、龍泉寺や関東・東北地方にも店舗を展開する「竜泉寺の湯」の「名古屋守山本店」を始め、東谷山フルーツパーク、歴史の里しだみ古墳群など、いくつかの観光施設がある。そして最後、下車するときに林さんは「今年の節分で龍泉寺が恵方に当たるの『龍』と、2024年の干支である『辰年』にちなんで、周辺地域ではイベントが開催されるなどとても盛り上がりました。ぜひ、ゆとりーとラインを利用してお越しください!」と意気込みを語ってくれた。

20年以上にわたり、地元の人々の生活を支えてきたゆとりーとライン。今後も地域の足として運行を続け、将来は最先端技術を搭載した車両が導入されることを期待したい。

取材・文=西脇章太(にげば企画)