日本製鉄のUSスチール買収をバイデン大統領が正式に阻止へ

AI要約

バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収計画を阻止する準備を進めていることが報じられている。

対米外国投資委員会(CFIUS)が審査中で、決定は週内に出る可能性がある。

バイデン大統領はUSスチールは国内で所有運営すべきとの考えで買収に否定的。日本製鉄は買収後も米国の取締役を過半数とする方針。

日本製鉄のUSスチール買収をバイデン大統領が正式に阻止へ

米メディアは、バイデン米大統領が日本製鉄による約141億ドル(約2兆300億円)でのUSスチール買収計画を阻止する準備を進めている、と報じている。日本製鉄による買収提案は、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象となっている。ホワイトハウス当局者によると、CFIUSから大統領への勧告はまだされていないが、バイデン氏はCFIUSの決定が自身に伝えられ次第、阻止する計画だという。早ければ週内に決定する可能性がある、とされる。

CFIUSは政府の省庁間委員会のひとつで、財務長官を議長として、省庁間を横断的に組織されており、米国の企業や事業への外国の直接投資の国家安全保障への影響を検査する。国防総省、国務省、商務省などの16の省庁代表者と国土安全保障省がメンバーに含まれており、外国投資を審査する大統領権限の一翼を担っている。

CFIUSは、審査中の案件を明らかにせず、また審査の過程で当事者を関与させず、さらに審査結果を公表しない。

バイデン大統領はかねてから、USスチールは国内で所有・運営されるべきだと公言していた。また民主党大統領候補のハリス副大統領も2日に、同じ考えを表明した。共和党大統領候補のトランプ前大統領も、大統領に返り咲いた場合はこの取引を阻止すると明言している。

日本製鉄は、買収を計画しているUSスチールの製鉄所に総額13億ドルの追加投資を行うと発表した。また買収完了後には、同社の取締役の過半数を米国籍とする方針も示した。またUSスチールは4日に、日本製鉄による買収が不成立になった場合には、数千人の労働組合員の雇用がリスクにさらされる、本社がピッツバーグに残れるかどうか「深刻な疑問」が生じる、と警告した。

しかしこうした両者の働きかけは、バイデン大統領の考えを変えさせるに至っていない。

バイデン米大統領が買収に否定的である背景には、大統領選挙が深く関わっていることは周知の通りである。USスチールの本社や、買収案に反対している全米鉄鋼労働組合(USW)の本部があるのは、激戦州の一つであるペンシルベニア州だ。ここで勝利するには、労働組合に支持される必要がある。

仮に、バイデン米大統領がUSスチール買収計画を認めない一方、日本製鉄が買収計画を撤回しない場合には、訴訟に発展する可能性がある。他方、買収が成立しなかった場合、日本製鉄は違約金として5億6,500万ドルをUSスチールに支払う必要が生じる可能性もある。

日本製鉄のUSスチール買収が、米国からの情報や技術の流出を通じて、国家安全保障への脅威になるとはとても考えにくい。むしろ、米国内の投資・雇用の拡大に貢献するだろう。

日本はインド太平洋において、安全保障のみならず経済面でも米国にとって最も重要な同盟国であり、また近年は、中国に対抗するための様々な取り組みで米政府と緊密に連携している。そうした同盟国の日本からの投資を阻止する米政府の姿勢は、日米間の信頼関係に悪影響を与え、将来に禍根を残してしまうことも考えられるのではないか。

木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)

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この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。