【究極の二択】アメとムチ、人を動かすのに効果的なのはどっち?米研究が明らかにした「やる気」の仕組み
2008年、ニューヨーク州の研究チームが手洗い率向上のために大掛かりな計画を行ったが、監視カメラだけでは効果がなかった。
医療スタッフが手洗いをする動機づけが必要と判断した研究チームは、自己フィードバックを得られる電光掲示板を設置し、手洗い順守率を上昇させた。
監視だけではなく、自分の行動に対するフィードバックが効果的であることが示された。
人を動かすとき、報酬(=アメ)と罰(=ムチ)のどちらが有効なのか?手洗いをサボる医療スタッフに手を洗わせる実験が明らかにした「究極の二択の答え」。人をやる気にさせる方法はかくも簡単なのか……。※本稿は、ターリ・シャーロット著、上原直子訳『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』(白揚社)の一部を抜粋・編集したものです。
● 医療スタッフの手洗い率を改善に 監視カメラは役に立たなかった
2008年、ニューヨーク州の研究チームは大掛かりな計画に着手した。彼らは病院内での手洗い率を大幅に上昇させるべく、2年の歳月と5万ドルの予算を投じた。
事例研究の場所として選ばれたのは、アメリカ北東部にある集中治療室(ICU)だ。治療室にはもともと、簡便なジェル状の手指消毒剤や洗面台が部屋ごとに備えつけられており、医療スタッフが手洗いを忘れないよう、至るところに注意書きが貼られていた。それでも、順守率はびっくりするほど低かった。
これに対して何ができるだろう?チームは数週間かけて様々な意見を交わし合った末に、21台の監視カメラを購入し、ICU内の手指消毒剤と洗面台が映る場所に設置した。そこからのライブ映像は、ウェブ経由でインドへ送信される。インドでは20人の監視員が24時間体制で医療スタッフの行動をモニタリングし、手洗い状況を評価するという計画だ。
医療スタッフが患者の部屋を出入りすると、ドア付近のセンサーが感知し、インドの監視員に注意を促す。ベビーシッターなどを監視する隠しカメラと違うのは、医療スタッフがカメラの存在をはっきり意識している点だ。
ところが衝撃的なことに、見られているのを知っていながら、ルールに適う手洗いをしたスタッフは10人中たった1人だった。監視だけでは不十分だと悟った研究チームは、改善策を迫られる。幸い彼らにはもう1つの計画があった。
● 手洗い順守率はハネあげた とっておきの秘策とは?
次なる作戦によって、医療スタッフの行動に急激な変化が訪れることになる。研究者たちは、スタッフが自分たちの行動をすぐにフィードバックできるよう、各部屋に電光掲示板を設置した(図3)。