「クマに30回以上遭遇」「妻にはキレられ…」それでも“幻の虫”採集をやめられない、熱きハンターの矜持

AI要約

虫好き少年が幻の虫オオクワガタを見つけることに懸命になる姿を描いた物語。

虫オタのクワガタ採集の始まりや、オオクワガタが見つからない理由に焦点を当てる。

クワガタ採集に懸命に取り組む虫オタの情熱と探求心が描かれている。

「クマに30回以上遭遇」「妻にはキレられ…」それでも“幻の虫”採集をやめられない、熱きハンターの矜持

たかが虫採りというなかれ。“幻の虫”の採集に命を懸ける男たちがいる。なぜそれほどまでに虫に魅入られ、危険を冒してまで山に入るのか――。

今夏の猛烈な暑さも霞むような“熱き”ハンターたちの冒険を、『オオクワガタに人生を懸けた男たち』より一部抜粋・編集のうえお届けする。

第1回:カリスマが「命懸けで採集する」“幻の虫”の正体

■クワガタ採集界で名を馳せる“虫オタ”

 いったいどこにいるんだ? 

 1990年夏――。

 「やべえヤツがいる……」

 伊勢丹相模原店で展示されたケースの中を覗き込んでいた少年は、ごくりと唾を飲んだ。

 噂に聞いていた“ブラック・ダイヤモンド”がそこにいた。厚みのある漆黒のボディ。内歯が隆起した大顎は、先端が美しいカーブを描いている。ゆっくり堂々とした動きは、まさに昆虫の王者の風格を感じさせた。

 「これがオオクワガタなのか」

 それは8歳の松島幸次が、いつも昆虫図鑑で眺めていた憧れの虫だった。

 「今思えば60ミリもないオスだったと思いますが、ものすごくデカく見えた。化け物みたいに。たぶん、ワイルドの個体だった。値段はよく覚えていないですが、とても子どもが買ってもらえる金額じゃなかった」

 松島は今やニックネーム“虫オタ”として、クワガタ採集界では有名な存在だ。一見すると目力が強くて髭を生やした風貌はコワモテなのだが、話すとめちゃくちゃ愛嬌があり、人柄の誠実さが伝わる。

 虫オタのクワガタ採集は、父親によく山に連れていってもらった子ども時代から始まる。

 ミヤマクワガタやノコギリクワガタ、ときにはヒラタクワガタが採れても、オオクワガタは見つからなかった。図鑑では生息地が「日本全土」になっている。じゃあ自分の住んでいる地域にもいるのではないか?  自転車で行ける範囲を探し回るが、気配すらもない。

 「いったい、どこにいるんだ?」

 これはかつてのクワガタ好きな少年たちが、一度は抱いた疑問だった。罪なのは当時の昆虫図鑑である。長年にわたって版を重ねているため、初版が昭和30~40年代のものが多く、監修した学者は戦前の生息記録をもとに記載したと思われる。