消費税アップの「実施前」と「実施後」で世論調査の結果が様変わりした驚きの理由

AI要約

大学教授が提案する「ベーシックサービス」の実現に向けた取り組みと、政府への不信感についての問題点が指摘されている。

消費税法の規定や政府のサービス提供の信頼性に関する議論から、税金の適切な使途の重要性が強調されている。

オランダの政府機関の例を挙げて、財政政策の透明性が重要であり、有権者にとって選択肢を明確にする仕組みが必要であることが説明されている。

消費税アップの「実施前」と「実施後」で世論調査の結果が様変わりした驚きの理由

 教育費・医療費・介護費・障がい者福祉が全部タダ!そんな社会を実現する「ベーシックサービス」という考え方が広がっています。提唱者の井手英策・慶應義塾大学経済学部教授が提案する「増税恐怖症」の処方せんとは?井手教授の著書『ベーシックサービス 「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会』(小学館新書)から抜粋・編集して紹介します。

● 信じられない政府という壁

 もうひとつ、大きな困難があります。それは政府への不信感という問題です。

 政府のなかにいる人びとを信頼できるかという問いにたいし、「つよく賛成」「賛成」と回答した日本の人の割合は、「国際社会調査プログラム」では38対象国・地域中36位、「世界価値観調査」でも、「政府をどの程度信頼しますか」という質問にたいし、「非常に」「かなり」と答えた人の割合は60カ対象国・地域中52位です。

 みなさんのなかにも、政府のことが信用できない、政府は私たちの希望どおりに税金を使ってくれない、という不信感があるかもしれません。

 この批判にはふたつの答えを示したいと思います。

 まず消費税法の第1条2を見てください。消費税の収入については、毎年度、制度として確立された年金、医療、介護、そして少子化対策にあてると書かれています。

 児童手当ともからんで、消費税の対象経費がこれだけで良いのかという問題はあります。ですが、制度的には所得税や法人税のほうが目的外に使用されるリスクは高いですから、政府が信じられないなら、使いみちを限定している消費税をいかすべきです。

 ただ、私たちは一度、悲しい経験をしています。じつは、民主党政権のもとでの社会保障・税一体改革では、消費税を5%から10%に引きあげるうち、その8割が社会保障の生みだす借金を減らすために使われたんです。

 みなさんはこの事実を知ってましたか? おそらくほとんどの人が知らなかったんじゃないでしょうか。

 日本は税の話から逃げ、借金にたよっていろんなサービスを提供してきました。これは財政民主主義の本質である、みんなに必要なものを話しあい、そのための負担を議論しあう、という経験を持てずにきたことを意味します。

 税金のことなんて考えなくても、サービスは受けられる。この体験の積みかさねは、税の使いみちをきちんとチェックしない、自分の税が何に使われるか知ろうとしない、非民主的な社会を生みました。MMTに頼った主張は民主主義の自殺行為だと僕はきびしく言いましたが、借金慣れは、現実に民主主義を骨ぬきにしたのです。

 大切なのは、税の使いみちをチェックする力です。いったい何のために、だれのために税を使うのか。これを見きわめる私たちの力こそが問われているのです。

● だったら僕らが監視すればいい!

 もうひとつの答えはもっと明快です。そんなに信頼できないのなら、信頼できるようにしてしまえばいいんです。

 オランダの経済政策分析局(Centraal Planbureau : CPB)を紹介しましょう。CPBは1945年に設けられた政府機関です。政府機関とはいっても、政府から介入されずに分析をおこなえるように制度設計されています。

 彼らは、選挙のさい、それぞれの政党や市民団体の要望を受けて、各党の公約を実施したときに予想される経済や財政への影響を分析して発表します。あの政党の政策をおこなえば、財政赤字がこれくらい大きくなる、この政党の政策が選ばれれば、自分たちの税金がこれくらい重くなる、有権者は政策効果を目に見えるかたちで知ることができます。

 CPBのおかげで、有権者は、自分がどの党に投票すべきかがわかります。社会学者リヒテルズ直子さんは、オランダの国政選挙の投票率が8割をこえている背景のひとつとしてこの機関の存在をあげています。

 政党の行動も変わります。自分たちの政策が数字で見えるようになると、各党は非現実的な選挙公約を作れなくなります。また、与党が選挙公約をなかったことにしてしまえば有権者から強い反発を受けますから、彼らは公約を必死に守ろうとします。