「植田ショック」後の金融政策の行方は?このまま利上げは続くのか?

AI要約

7月31日の日銀会合での金利引き上げや長期国債の買い入れ減額により、金融市場で混乱が生じ、世界同時株安が起こるなどの影響が広がった。

日銀は円安を警戒し、輸入物価の上昇を理由に金利を引き上げた。これまでの為替による物価上昇との関係が指摘されている。

将来的には長期国債の買い入れ額は減少し、通貨供給も縮小される見込みだが、日本の金利が急上昇すれば日銀は追加の買い入れ増額を行う構えも示している。

「植田ショック」後の金融政策の行方は?このまま利上げは続くのか?

 7月31日に日銀は政策金利を0.25%へと引き上げると共に、長期国債の買い入れ減額を決定した。その後、日銀の利上げに驚いた投資家が円キャリートレード(低金利の円を調達し株式や高金利通貨で運用する取引)を巻き戻したところに、7月の米雇用統計で失業率が上昇したことで米国の景気後退懸念がにわかに浮上。その後、世界同時株安となった。植田ショックとも言われたこの状況だが、今後の金融政策はどうなるのか?

 そもそも、なぜ7月31日の日銀会合にて利上げが行われたのだろうか。その原因として、為替(円安)が大きかったと思われる。日銀が声明文と同時に発表した参考資料(パワーポイント2枚)には、スライド上部に「輸入物価は再び上昇に転じており、先行き、物価が上振れするリスクには注意」とあった。

 この1文は、「日銀が円安に対する警戒を強めたことを意味している」と筆者は受け止めた。というのも、足元の輸入物価は契約通貨建てで見れば、さほど上昇していないため、輸入物価の上昇はほぼ円安で説明可能だからだ。7月の契約通貨建ての輸入物価は前年比プラス1.6%とほぼ横ばいであるのに対して、円建ての輸入物価は同プラス10.8%と高く、しかも上昇基調を強めている。

 実際、8月7日に行われた内田副総裁の講演でも「輸入物価の上昇は、契約通貨ベースではほぼゼロ%ですので、円ベースでの上昇は、ほぼこれまでの円安によるものです」という言及があった。日銀が「為替を理由に金融政策を変更することはない」という従来の常識はもはや通用しなくなっている。

 長期国債の買い入れ方針については。7月時点の約5.7兆円を毎四半期4,000億円ずつ減額し、2026年1-3月期以降は3兆円程度に減額する方針が示された。2年後に3兆円というのはおおむね事前予想に一致するが、向こう1年程度の減額ペースは予想対比(4兆円)でやや緩やかであり、この点はハト派的な印象を受けた。

 予定通りに減額が進捗する場合、GDPを600兆円強とすれば、年間での長期国債買い入れ額はGDP比で6%程度に落ち着くことになり、異次元緩和導入以前の状態に近くなる。いわゆる成長通貨(経済成長率見合いで供給する通貨)としての通貨供給という位置付けだろう。

 もっとも、海外金利が急上昇するなどして日本の長期金利が跳ね上がるような事態となれば、日銀は機動的な買い入れ増額措置によって長期金利を抑える構えを示している。そうした下で10年金利は7月31日の後も1%を割れて推移している。少なくとも現時点において金融引き締め効果が発現しているとは考えにくい。

 では、先行きの金融政策はどうなるのだろうか。