漫画家ねこクラゲ氏・約4700万円脱税で有罪判決。「急に売れた作家」が知っておくべき救済制度とは

AI要約

漫画家が脱税の罪で裁判にかけられ、執行猶予付きの有罪判決を受けた。

急激に収入が増えるクリエイターなどは所得税の「平均課税制度」を活用することで節税が可能。

平均課税を利用した場合、1億円の変動所得で1,000万円近く所得税を減額でき、更正の請求も可能。

漫画家ねこクラゲ氏・約4700万円脱税で有罪判決。「急に売れた作家」が知っておくべき救済制度とは

人気ライトノベル「薬屋のひとりごと」の漫画版で作画を担当する漫画家(ペンネーム:ねこクラゲ)が、脱税の罪に問われた裁判で、福岡地裁は7月24日、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。

被告は、2019年からの3年間で約2億6000万円の所得があったが、期限までに確定申告をせずに所得税約4700万円を脱税。裁判官は判決で「数年にわたる多額の脱税で悪質」と指摘する一方で、「(2017年の漫画連載開始後)急激に人気漫画家となり、確定申告の重要性を軽く見て、目の前の仕事やプライベートを優先させ、事務作業から逃げ続けた結果」とした。

漫画家に限らず、そのほかのクリエイターやスポーツ選手などの職種では、作品がヒットしたり契約金をもらったりで、前年に比べ急激に年収が増えることがある。

自身の成功を実感できて嬉しい反面、支払う税金の負担も大きくなるが、そうした際には所得税の「平均課税制度」を活用できるかを検討するといいだろう。

●思いがけず収入が増えたときに活用できる「平均課税制度」

所得税においては、「超過累進税率」が適用されるため、所得が多くなるほど税率が高くなる。そこで平均課税制度を適用することで、超過累進税率よりも低い税率で税額を計算することができるのだ。

ただし適用には要件がある。1つめは、対象となる所得が「変動所得」か「臨時所得」であることだ。「変動所得」と「臨時所得」の代表例は以下のとおり。

・変動所得…事業所得か雑所得で、印税、原稿料、作曲料による所得や、漁獲やのりの採取による所得 など

・臨時所得…事業所得か不動産所得、雑所得で、プロ野球選手などが一時に受け取る契約金(3年以上の期間契約を結んだ場合の契約金で、その金額が報酬年額の2倍以上のもの)、不動産や借地権、実用新案権など、他人に使用させるために一時に受け取る権利金や頭金(3年以上の期間契約を結んだ場合に、その金額が年額の2倍以上のもの) など

2つめは所得金額に関してで、以下のいずれかの要件に該当する必要がある。

・過去2年間に変動所得がなかった場合

・過去2年間に変動所得があり、2年間の合計額の2分の1の金額が本年の変動所得に満たない場合は、本年の変動所得と臨時所得の合計額が、本年の総所得金額の20%以上

・過去2年間に変動所得があり、2年間の合計額の2分の1の金額が本年の変動所得以上の場合は、その年の臨時所得の金額が、本年の総所得金額の20%以上(臨時所得のみが平均課税の対象)

以上の要件を満たし「平均課税制度」を利用した場合、どのくらい節税になるのだろうか。篠 昌義税理士に聞いた。

●1億円の変動所得があった場合、納税額が約1,000万円減

「アニメ化により原作漫画が急激に売れたことで、前年より大幅に収入が増えた漫画家」を例に、平均課税を利用した場合とそうでない場合とで、納税額のシミュレーションをしてみましょう。

【例】

・変動所得(原稿料、印税):今年1億円、1年前1,000万円、2年前500万円

・課税総所得(イラスト料など、変動所得以外の所得も含む):今年1.1億円、1年前2,000万円、2年前1,500万円

<平均課税を利用しない場合>

(1)所得税

単純に課税総所得に対して累進課税を用いて所得税を計算します。

110,000,000円✕45%-控除額4,796,000円=44,704,000円

(2)住民税

住民税は一律で10%程度発生します。厳密には均等割という定額の住民税などの要素もありますが、ここでは計算を簡単にするため加味しません。

110,000,000円✕10%=11,000,000円

<平均課税を利用する場合>

(1)所得税

まずは、変動所得の平均額を算出します。

変動所得の平均額:100,000,000円ー(10,000,000円+5,000,000円)✕1/2=92,500,000円

課税総所得110,000,000円>変動所得の平均額92,500,000円

調整所得金額の計算は上記の判定の結果で計算方法が異なります。課税総所得が変動所得の平均額を超える場合は、課税総所得から変動所得の平均額の4/5を差し引いた金額が、調整所得金額になります。

なお、課税総所得金額が変動所得の平均額以下であれば、課税総所得の1/5が調整所得金額になります。

調整所得金額:110,000,000円ー(92,500,000円✕4/5)=36,000,000円

調整所得金額に対する税額:36,000,000円✕40%ー控除額2,796,000円=11,604,000円

※所得税の累進課税表を用いて計算

特別所得金額:110,000,000円-36,000,000円=74,000,000円

平均税率:11,604,000円÷36,000,000円=32%(小数点未満切り捨て)

特別所得金額に対する税額74,000,000円✕32%=23,680,000円

税額計=11,604,000円+23,680,000円=35,284,000円

(2)住民税

住民税は平均課税を適用することはできず、一律10%程度発生します。

110,000,000円✕10%=11,000,000円

2つの所得税の違いをみると、平均課税を用いた方が1,000万円近く有利になっていることが分かると思います。

このように変動所得が多額に発生した場合には、平均課税を用いると所得税額を大きく減らすことができます。

納税額のシミュレーションは、国税庁の平均課税の計算書(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2020/pdf/020.pdf)を参考にするとわかりやすいと思います。

●「変動所得に該当するもの」は厳密に定められている

変動所得になるものとして、クリエイターの所得に対して、国税庁は厳密に以下の所得が変動所得に該当すると指定しています。

「原稿又は作曲の報酬に係る所得及び著作権の使用料」

したがって、原稿以外のイラストの報酬や、著作権の使用料以外の管理料などの所得は変動所得に該当しません。また、プロジェクト管理費などが原稿料と合わせて入金されてくるケースもよくありますが、原稿料のみが変動所得に該当します。

あくまで、原稿、作曲の報酬として直接的に得た所得と著作権の使用料(印税)そのものしか変動所得に該当しないと覚えておくとわかりやすいでしょう。

●平均課税の適用は確定申告後でもOK

確定申告で平均課税を利用し忘れていた場合は、後から「更正の請求」にて平均課税を適用した申告書を提出することで、払いすぎた所得税を取り戻すことができます。

「更正の請求」は、過去に申告した税額が多すぎた場合に減額更正を税務署に求める行為のことです。「更正の請求」は5年間にさかのぼって利用することができますので、5年前までの分に対し、払いすぎた所得税を取り戻すことが可能です。

【取材協力税理士】

篠 昌義(しの まさよし)公認会計士・税理士

有限責任監査法人トーマツで監査、税理士法人で実務を担当した後、シェアリングテクノロジー株式会社のCFO、代表取締役を歴任。現在は、税理士事務所所長、専門家の相談室を運営するマーケットハック株式会社の代表取締役。

事務所名: 篠昌義税理士事務所

事務所URL:https://www.sodanshitsu.co.jp/