「これぞ“ジャメリカン”!!」1970~’80年代に生まれた美麗の国産アメリカン・グラフィティ

AI要約

1970年代後半から1980年代にかけて、日本メーカーが手掛けたアメリカンスタイルのバイクモデルを紹介。

各メーカーが独自のアプローチでアメリカン風のモデルを開発し、ハーレーダビッドソンを意識したデザインやスタイルが特徴。

エンジンの特性やデザインを工夫し、ハーレーとは異なるが独自の魅力を持つアメリカンバイクが登場した。

「これぞ“ジャメリカン”!!」1970~’80年代に生まれた美麗の国産アメリカン・グラフィティ

1969年に公開されたアメリカ映画「イージーライダー」に登場するハーレーダビッドソンのカスタムチョッパーに影響を受け、長めのフロントフォークとアップハンドル、それに対して車高の下がったリヤまわりといったフォルムがバイクのカテゴリーとして流行した。

そして、広大な直線路をたんたんと走るようなアメリカ大陸でのイメージにフィットするモデルを、日本メーカーも1970年代の後半から手掛けるようになるのは御存知かもしれない。これが今のクルーザー、当時はアメリカンと言われたカテゴリーだ。とはいえ、当初の国産アメリカンが搭載したエンジンはハーレーのようなVツインではなく、既存のロードモデル用エンジンを用い、専用の外装や車体に積む手法が主流。元からアメリカン専用に仕立てたモデルだったわけではないものの、非Vツインからスタートした「和製アメリカン」は、確実に独自の道を歩み始めた。

ここではそんな’70~80年代車から、美麗だったアメリカンモデルをピックアップしてご紹介しましょう。

■スズキ・マメタン(50)【1977年】「レジャーバイク的な可愛さをまとった原付チョッパー」

50ccの原付を、アメリカンチョッパー風に仕立てた国産初のモデルがマメタン。本場アメリカでは見られない50ccモデルのエンジンは、ロードモデルRG50系ベースでパワーリード方式の空冷2スト単気筒。ハーレーツインの雰囲気は微塵も感じられないものの、小ぶりな車体にアップハンドル、専用タンクや後ろ乗りのチョッパーシート&テールカウルなどでそれらしい雰囲気でまとめられ、小ぶりな車体でレジャーバイク的な立ち位置としても人気を誇った。同車の登場以降、小排気量アメリカンが各社から発売されるようになった。最高出力5.5ps、当時価格は10万9000円。

(写真説明)

・スズキ・マメタンのカタログより。ピストンバルブとリードバルブを併用したスズキ独自のパワーリードバルブ式の2ストエンジンを採用。小柄な車体の割に大きなヒップ(テールカウル)内は、地図や工具セットなどの収納スペース。

■カワサキ・KZ1000LTD【1977】「海外市場向けに仕立てられたアメリカカワサキ製大型直4アメリカン」

大排気量クラスで、アメリカンモデルをいち早く生産したのがカワサキ。米国のリンカーン工場で1976年に限定生産されたKZ900LTD(欧州向けはZ1LTD)は、既存のZ1のエンジンとフレームをベースに、プルバックハンドル、後輪径の変更(18→16)、段付きシート(キング&クイーンシートとも呼称)、専用タンク&テールカウルの装備でまとめられた。ハーレーとはまったく異なる並列4気筒車ながら、独特の風格を漂わせて評価された。750cc超の同車は当時日本へ導入されなかったものの、以降カワサキは多様な排気量でZ-LTDシリーズを展開。また国内他社もこれに影響を受け、和製アメリカンを市場に投入していく。写真はZ1LTDの翌1977年に生産されたKZ1000LTD。

■ヤマハ・XS650スペシャル【1978】「ヤマハ伝統の並列ツインを積んだ端正な和製アメリカン」

国内市場へ大排気量アメリカンを初投入したのはヤマハ。既存のスポーツモデルTX650ベースのバーチカルツインは、すっきりした端正なたたずまいで独自の美しさを醸し出した。またティアドロップ(涙滴型)タンク、チョッパー風ハンドル、キング&クイーンシート、ショートメガホンマフラー、後輪16インチといった当時のアメリカンの文法的な装備をまとったアメリカン路線を、ヤマハは「スペシャル」シリーズと銘打って展開。写真はワイヤスポークからキャストホイールに変更された1979年型モデル。最高出力51ps、当時価格は43万5000円。

(写真説明)

・1970年発売の650XS1から続くOHC2バルブの直立した並列2気筒エンジン。1979年モデルから点火方式が従来のポイント式からフルトランジスタに進化。

■カワサキ・Z400LTD【1979】「非Vツイン路線で国内のアメリカンカテゴリーを牽引したLTDシリーズ」

1980年を迎える以前、国産アメリカンは雰囲気をチョッパー風にしたものの、ハーレーのような横置きVツイン搭載車は登場していなかった。そんな中で強い勢力だったのがカワサキZ-LTD(リミテッド)シリーズ。各排気量のロード用エンジンをベースに、フレームをロワリング加工してシート高を下げ、前19/後16インチとした手法のアメリカンは、国内の中型クラスでスマッシュヒット。その中核を担ったのがZ400RS系空冷並列ツインを搭載のZ400LTDなどで、最高出力36ps、当時価格34万円。カワサキは後に4気筒版やベルト駆動のLTDシリーズなども発売して、アメリカンのバリエーションを拡大していくが、その辺のお話は以前に紹介のZ-LTDのモーサイ記事をお読みください。

■ホンダ・ウイングGL400/500カスタム【1979】「異色の縦置きVツインを積んだホンダ初のアメリカンモデル」

ホンダが国内に初投入したアメリカンは、水冷縦置き80度Vツイン搭載のウイングGL400/500カスタム。オンロード車のGL500(1977年)/同400(1978年)に先行搭載されたエンジンで、カスタムではプルバックハンドル、ティアドロップタンク、メガホン型マフラー、段付きローシートなどを装備。これも非ハーレーVツインながら、エンジンの存在感が際立ち、個性的なアメリカンスタイルを構築。そこそこヒットして、街なかでもツーリング先でも見かけた記憶がある。最高出力40ps(400)、48ps(500)、価格43万8000円(400)、45万8000円(500)。ホンダはこのほか、同年にホークⅡ系並列2気筒搭載のアメリカンCM400Tも国内発売。

(写真説明)

・1979年のGL400/500シリーズ合同のカタログ。ベース車のGL400/500に対し、ホンダはこの時期アメリカンモデルに「カスタム」の名称を付加するパターンを、ほかのアメリカンモデルでも多用していた。

・GL500(1977)から採用された縦置きの水冷Vツイン。同エンジンの最大の特徴がシリンダーヘッドをクランクシャフト方向に対して22度ひねった「ツイステッドVツイン」。キャブからエキゾーストまでを一直線の理想的配列として吸・排気効率の向上をねらったもの。

■ヤマハ・RX50スペシャル【1980】「大柄な車体に2スト単気筒を搭載した原付版本格アメリカン」

マメタンに続き、小排気量50ccで誕生したアメリカンモデルがヤマハRX50スペシャル。GT50(ミニトレ)系の空冷2スト単気筒を最高出力7psまでパワーアップして搭載した車体は、全長1880mmのなかなか立派な車格。自動二輪に手が届かない層や、原付免許の若者たちには立派な車格の原付スポーツを求める需要もあり、RXはそれに応えた大柄な50ccアメリカンに。一人乗りの50ccは段付きシートの後部をフタ付きの小物入れにしており、翌年には二人乗り可能な原付二種のRX80スペシャルも発売。RX50スペシャルはホイール違いで2タイプ用意され、価格はスポーク仕様が14万3000円、キャストホイール仕様が15万8000円。

■ヤマハ・XS250ミッドナイト・スペシャル【1981】「主力アメリカンなどに用意された黒金の特別仕様・ミッドナイトスペシャル」

輸出専用車のXS1100/850スペシャルをはじめ、1980年の国内市場では750、650、400、250までXS-スペシャルを展開したヤマハ。ただし、各車ともロードスポーツ用エンジンをベースとし、750=GX750系並列3気筒、650=TX650系並列2気筒、400=GX400系並列気筒、250=GX250SP系並列2気筒の派生モデルという位置づけだが、アメリカンが専用開発でなかった当時は各社ともこうしたモデル展開が多かった。またヤマハが一部のアメリカンモデルを特別の意匠にして発売したのがミッドナイトスペシャルシリーズ。エンジンをブラックアウトし、ホイールや各部パーツやエンブレムをゴールドとした仕様は、ヤマハのゴージャス系アメリカンの代名詞でもあった。写真は1981年発売のXS250ミッドナイトスペシャル。

(写真説明)

・ロードモデルのGX250SPをベースに、アメリカン仕様としたXS250スペシャルは1980年に発売。その特別仕様が翌年発売のXS250ミッドナイトスペシャルで、この時期のヤマハは輸出向けアメリカンのほか、前出のRX50スペシャル、レジャーバイクのポッケ、4気筒アメリカンのXJ650スペシャルなどにもミッドナイトスペシャルを用意していた。

■ヤマハ・XV750スペシャル【1981】「ヤマハ初の横置きVツインは、75度Vの空冷エンジンだった」

ヤマハ初の横置き空冷Vツイン搭載で登場した同車。米国市場でのエンジン形態のヒアリングから、クルーザー=Vツインという強い固定概念があるとの結果から生まれたものだが、欧州向けのオンロードモデルXV1000TR1(国内向けは1982年発売のXV750E)などと共用のエンジンで、アメリカン専用ではなかった。だが、ハーレーの45度Vやドゥカティの90度、モトモリーニの72度、ビンセント・ラパイドの60度など、もろもろのVツインを参考にし、振動の出方やスタイリングも含めて検討して決まったのが75度Vツイン。同エンジンはその後XV1100や同750ビラーゴにも継承されるなど、ヤマハ製Vツインでの長寿機となった。最高出力60ps、価格63万円。

■ホンダ・NV750CUSTOM【1982】「ホンダ初の横置きVツインは狭角45度の750ccエンジン」

ホンダが初めて横置きVツインを搭載したアメリカンが、NV750カスタム。前後気筒間が45度と狭角のVバンクはハーレーと同じながら、ホンダNVは水冷なのに加え、バランサー不要の90度位相クランクを採用して一次振動を低減。だが、ホンダらしく振動抑制を真摯に追求したことによってVツインらしい振動や鼓動が薄まり、テイスト的に物足りないと評する声もあった。最高出力66ps、当時価格は65万円。なお、この749cc45度Vツインは、空冷化して異色のオンオフツアラーXLV750Rに搭載された。また同車の弟分として、52度水冷Vツインに76度位相クランクを組み合わせたNV400カスタムも1983年に登場。ホンダはこの時期エンジンで様々なトライをしていたのが分かる。

■スズキ・VS750イントルーダー【1985】「アメリカン専用車体とエンジンを採用し、端正に仕立てられたスズキ初の本格派」

アメリカン専用として、新開発の水冷45度Vツインを搭載したスズキの本格アメリカンモデル。同年海外向けに登場したVS700GLのボアアップ版として国内発売。美しく端正な造形の水冷Vツインと、新設計ダブルクレードルフレームの同車はスマッシュヒット。そして、翌年海外向けに登場した上級車モデルのVS1400GLや、後年登場した400cc版のイントルーダー400、750の後継モデルのイントルーダー800へ車体が共用された。750の登場以降、当初はサブネームだったイントルーダー(英語で侵入者の意)は、長らくスズキ製アメリカンのメイン車名として使われることとなった。750はプルバックハンドルとフラットバー仕様がラインナップされ、最高出力63ps、価格は67万円。

(写真説明)

・1985年のVS750イントルーダーのカタログ。磨き抜かれた肉体のように「モーターサイクルとして必要なものだけを装飾、シンプルな美しさをきわめた」と、スタイリングをアピールする。

■ホンダ・ジャズ【1986】「ロー&ロングを強調した小粋な原付チョッパーアメリカン」

本場のアメリカンの雰囲気を取り入れ、ロー&ロングなスタイルとした原付アメリカン。ティアドロップタンクやメッキパーツを各部に採用し、エンジンはカブ系の空冷4スト単気筒を搭載。大きく寝かせた長めのフロントフォークやプルバックハンドル、前方に投げ出されたフォワードステップ、小さな横置き単気筒を抱えるダブルクレードルフレームで構成されるすき間の大きな車体が、小粋なチョッパースタイルの雰囲気を盛り立てる。1990年代末まで生産され、根強い人気を獲得したモデルで、最高出力4ps、当時価格19万9000円。

■ホンダ・スティード(400/600)【1988】「1990年代にブームを開花させたホンダ製400アメリカン」

伝統的なアメリカンスタイルを標榜し、狭角52度水冷Vツインを搭載したスティード。エンジンはNV400SPや同カスタムをベースとしつつ、2台に採用された位相クランクをやめ、同軸クランクとして適度な振動と鼓動を出す方向へチェンジ。ローアンド&ロングを強調する長い軸距と低いシート高が特徴で、ヘッドパイプ部から後輪車軸部まで一直線に見える構成でVツインを抱え込むデルターシェイプデザインとアピールし、リヤスイングアームは工夫を凝らしてリジッドに見えるように演出。クラシカルかつ斬新なスタイルで、400は90年代後半までスティードブームを生んだ。400は最高出力30ps、当時価格は59万9000円。写真は背もたれを標準装備した1990年の400モデル。なおスティードについては、別のモーサイ記事で詳しく紹介しています。

(写真説明)

・「乗るほどに、味が深くなる。」という文章とともに、ロングホイールベース、長いフロントフォーク、「スティードの象徴」のシャープな輝きを放つエアクリーナーをアイコンに、扱いやすい、ボリューム感ある車両とアピールする。

・手前がライダー側に心地よく絞り込まれたティラー・バーハンドル仕様のスティード600、奥がスポーティなフラット・バーハンドル仕様の400。600はティラー・バーハンドルのみだが、400は両仕様のハンドルとも選択可能だった。

まとめ●モーサイ編集部・阪本  写真・カタログ●八重洲出版アーカイブ