早くて2028年「ホンダと日産」テスラやBYDに追いつくか

AI要約

ホンダと日産がBYDやテスラに追いつくための戦略的提携を発表。SDVに必要な技術の共同研究や基幹部品の共同開発を行う。

両社はスピード感を重要視し、2030年を勝負の年と位置付ける。しかし、次世代SDVの具体的な商品化には不透明な点もある。

現在の自動車市場ではテスラやBYDが先行しており、ホンダや日産は共同開発を通じて先行メーカーに追いつく狙いを持つ。

早くて2028年「ホンダと日産」テスラやBYDに追いつくか

 「中国のBYD(比亜迪)を特定したわけではないが、先行している会社は圧倒的に開発のスピードが速い。スピード感をもって彼らをとらえ、超えていこうと考えている。まだ試合は始まったばかりなので、十分戦えると思っている」(ホンダの三部敏宏社長)

 「BYDのスケーラビリティー(変化への対応能力)は相当大きなものがある。我々が本当に対抗できるレベルになっているのか。素晴らしい技術があっても、事業化できなければ、市場のニーズに合わなければメリットにつながっていかない。やはり大切なのはスピード感だ」(日産自動車の内田誠社長)

 ホンダと日産は2024年8月1日、SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)と呼ばれる次世代の電気自動車(EV)について戦略的な提携を発表した。SDVに必要な車載基本ソフト(OS)などの基礎的要素技術を共同研究するほか、電池、モーター、インバーターなどEVの基幹部品も共同開発し、新たに三菱自動車工業も提携に加わることになった。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 冒頭の発言は同日の記者会見で、「本日発表した戦略を実行すれば、BYDや米テスラに追いつくことができるのか。両社に比べて何が決定的に足りないのか」という報道陣の質問に対する両トップの回答だ。

 この日の会見のキーワードは「スピード感」だった。ホンダ、日産とも両社長が最も多く口にしたのがこの言葉だろう。三部社長からは「今は平常時というよりも、むしろ非常時」という切羽詰まった言葉も飛び出した。世界で追いつくべきライバルはテスラとBYDで、ここで開発を急がなければ取り残されるという危機感を感じさせる会見だった。

 ◇「勝負どころは2030年」

 問題は「(ホンダ、日産、三菱自の)技術を持ち寄り、先行している新興メーカーをいち早くとらえ、それをリードする」(三部社長)というタイミングだろう。三部社長は「勝負どころは2030年と見ている。研究がうまく行けば、30年よりも手前に出したい」と述べた。

 自動車メーカーの場合、25年の量産モデルの開発は終わり、26年と27年の量産モデルの開発は既に着手している。そうなるとホンダ、日産、三菱自連合の次世代SDVが登場するのは早くて28年ということになる。

 そこで会見では「スピード感と言いながら、今から基礎的要素技術の研究を行って、本当に28年に間に合うのか」という厳しい質問も出た。

 ホンダ、日産は次世代SDVの基礎的要素技術の共同研究について「まず1年をめどに基礎研究を終え、成果が出れば量産開発の可能性を含め検討する」としている。

 この点について、三部社長は「研究は始まっている。ベーシックな研究を固めておいて、その結果を見て、量産に向けていくかどうかという判断を1年後にできればと考えている。ソフトウエアの開発は4ケタ億円くらいかかるが、そこを各社で案分できるメリットは大きい」と説明した。

 三部社長の発言は、ちょっと心もとなかった。次世代SDVの基礎的要素技術の共同研究は始まったが、世界をリードする具体的な商品に結び付くかどうかは、まだわからないということなのだろう。

 ◇3年前に日産社長が語ったことは

 筆者は21年8月に内田社長にインタビューした際、日産が09年に世界初の量産EV「リーフ」を発表しながら、なぜEVの技術開発や販売台数でテスラの後塵(こうじん)を拝し、世界のEV市場をリードできないのか聞いた。

 内田社長は「EVのパイオニアなのに、なぜもっとうまく伸ばせなかったのかという指摘については、やはり当社ならではの問題があった」と、先行メリットを生かせなかった事実を認めた。テスラについては「お客様のニーズをとらえ、タイムリーに商品化するという面で、学ぶべき点が多い」と述べた。

 内田社長は「そうは言いながらも、やはり10年余のEVの実績・経験というのは、日産にとってものすごい技術的な蓄積、財産になっている」とも語り、「お客様に『やっぱり日産のEVは違うよね』と言っていただけるようにEVを進化させ、これまでのクルマの枠を超えた新しい価値を提供したい」と力を込めた。

 あれから3年たち、どうなったか。これまで日産は、社運をかけた新型EV「アリア」と軽EV「サクラ」を発売した。とりわけ三菱自と共同開発したサクラについて、内田社長は「新しい軽EVの価値を出し、軽のEVをゲームチェンジャーにしたい」と熱く語っていた。

 22年6月発売のサクラは、5月の発表から約3週間で受注が1万1000台を超えるなど発売直後は好調だった。ところが、その後は販売が落ち着き、大ヒット商品とはなっていない。アリアはリーフを超える先進技術を数多く導入したが、世界のEV市場でテスラやBYDほどの存在感を示せていない。

 ◇「矢継ぎ早に手を打っていく」

 ホンダが20年に発売した同社初の本格EV「ホンダe」は世界市場の評価が得られず、生産を終了してしまった。ホンダはソニーグループと「ソニー・ホンダモビリティ」を22年に設立。両社の先進技術を持ち寄った高級EV「アフィーラ」を開発中で、25年の発売が注目されている。

 果たして、今回のホンダと日産、そして三菱自も加わる次世代EVの共同開発は、掛け声だけで終わるのか。それとも狙い通りテスラやBYDに追いつき、追い越すことができるのか。

 会見では、ホンダと日産のソフトウエア開発のエンジニアが登壇し、「SDVでテスラや中国勢に少し先に行かれているという理解の下、SDVで勝つ、リードするという思いは両社とも共通している。両社のエンジニアが新しい世界を作れると確信している」と語る場面もあった。

 いずれにしても、今回の戦略提携は第一歩にすぎない。「これらの構想をスピーディーに実行し、矢継ぎ早に手を打っていく。今後も継続して、みなさんに進捗(しんちょく)をお伝えしていきたい」という三部社長の言葉を信じたい。まずは1年後の共同研究の成果が量産開発に結び付くのか注目したい。