世界最先端の技術で「鉄道高速化」を実現してきたフランスのプライド TGVが「574.8km/h」達成時には車両がセーヌ川をパレード

AI要約

フランスのTGVは、2007年に鉄輪式鉄道の世界最速記録を樹立した特別編成の車両であり、その試験走行や記録樹立の瞬間は生中継された。

鉄道の歴史はスピードの歴史でもあり、国々は技術力を競い合い、世界最速記録を更新してきた。

ドイツが最初に200km/h、フランスが最初に300km/hを突破したことで、鉄道技術のリーダー国としての地位を築いた。

世界最先端の技術で「鉄道高速化」を実現してきたフランスのプライド TGVが「574.8km/h」達成時には車両がセーヌ川をパレード

 鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第21回は「フランスのTGV」について。

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 パリで行われたオリンピックでは、開会式が話題になりましたね。世界のアスリートたちが国や地域ごとに船に乗り込み、パリ市街を流れるセーヌ川をクルーズしながらパレードしたことは、近代オリンピック始まって以来のユニークな試みでした。

 さて、セーヌ川では、ある鉄道車両が船で移動し、エッフェル塔近くの川畔で展示されたことがあります。つまり、先ほどの開会式と同じように、鉄道車両がセーヌ川で人々に見送られながらパレードしたことがあるのです。

 そこで今回は、その鉄道車両を紹介しながら、鉄道におけるスピードアップの歴史をふり返ってみましょう。

 まず、結論から言います。先ほどのある鉄道車両は、2007年4月に鉄輪式鉄道の世界最速記録(574.8km/h)を樹立したTGV(テジェヴェ、フランスの高速列車)の特別編成の車両です。

 この特別編成が試験走行をする様子や、鉄輪式鉄道の世界最速記録を樹立する瞬間は、フランス国内のテレビで生中継されました。線路の沿線に置かれたカメラだけではなく、特別編成を追跡する小型ジェット機に載せたカメラで撮影され、その姿が実況中継されたのです。

 このあと、特別編成のうちの2両が船に載せられ、セーヌ川をパレードしました。これほどの特別な扱いを受けた鉄道車両は、かなりめずらしいでしょう。

 このことから、フランス国民にとって、この特別編成がいかに誇らしいものだったかをうかがい知ることができます。

 鉄道の歴史は、スピードの歴史でもあります。なぜならば、鉄道の世界最速記録を塗り替えることが、その国の技術力をわかりやすく示す指標になるからです。

 このため、鉄道を持つ国々は、自国のプライドにかけて互いにスピードを競い合ってきました。

 世界で最初に200km/hを突破したのは、ドイツでした。ドイツでは、1903年10月に電車が203km/h(同月に210.1km/h)を記録しました。

 その後、ドイツは国の威信をかけて鉄道の高速化に積極的に取り組みましたが、第二次世界大戦で敗戦したのを機に、同国の鉄道技術は衰退しました。

 世界で最初に300km/hを突破したのは、フランスでした。フランスでは、1955年3月に電気機関車がけん引する客車列車が320.6km/h(同月に331km/h)を記録しました。

 このことでフランスは、鉄道技術において世界最先端の国になりました。また、フランス国鉄は、他国から多くの留学生を受け入れ、鉄道技術を伝える役割を果たしました。