「寝耳に水」の不良債権…年商17億円だった企業、破産への転機

AI要約

丸信工業は急成長を遂げたが、新規取引による手形の取り扱いに誤りがあり、大きな不良債権を抱えることになった。

社長は安易な取引判断が災いし、T社との取引が破綻。経営判断力が鈍り、破産手続きを開始する結果となった。

厳しい経営状況下で慎重な判断をする必要性が示唆される事例となった。

「寝耳に水」の不良債権…年商17億円だった企業、破産への転機

「寝耳に水」、丸信工業の社長はこう思っただろうか。年商17億円の企業が突如として9億円近い不良債権を抱えることになったのだから。

丸信工業は1961年(昭36)8月の設立。製油所や化学工場で使われるポンプ用の機能部品やポンプ周りの継ぎ手やパッキン・ガスケットの販売や付帯工事を手がけてきた。大手メーカーの代理店として、大きくこそないものの、堅調に売り上げ・利益を確保してきた。

転機は10年ほど前のこと。東日本大震災後の景気低迷から業績が停滞していたため、T社の営業を受け同社製の電解水生成装置、水素水サーバーなど環境衛生関連製品の販売を始める。

しかし、思うように販売は伸びず、その仕入れのために振り出した手形の決済を引き延ばしていた。そして2020年ごろ、T社よりT社へ卸す提案を受ける。つまり、T社から仕入れた商品をT社へ売ること。T社が買い戻すと言い換えてもよい。

この際T社は、丸信工業がT社からの仕入れで振り出した手形に5%乗せた代金を、その手形の決済日前に支払うという。社長は「自動的に利益が生じるような取引であり安易に考え過ぎてしまっていた」という。この取引は昨秋から急速に増えていった。

漠然とした不安を感じるようになったものの、結局はT社の要請通りに追加で手形を振り出してしまう。24年3月、T社が破産したことで、ついに不安が現実となる。T社からの振り込みがストップ、T社に振り出した手形決済資金が不足し、丸信は2度の不渡りを出す。

冒頭の通り突如として多額の不良債権を抱えたことで「実質的には、商品の売上高ではなく、手形の融通とその決済資金の支払いを受けるための取引に過ぎなかったということを如実に思い知る」(破産申立書)、そして5月8日に破産手続き開始決定を受けた。

うまい話はない。しかし、厳しい経営状態になると判断力が鈍ってしまうのか。決してひとごとではない。(帝国データバンク情報統括部)