「線路」を残して「住民」が消える 赤字ローカル線“延命策”の末路

AI要約

赤字ローカル線の拡大が日本の崩壊を警告するシグナルであり、人口減少が背景にあることが指摘される。

地域の消滅と公共交通の存続について検討が必要であり、人口減少社会における公共インフラの重要性が問われている。

人口減少社会においては、全体最適の視点から鉄道の存廃を考える必要がある。

「線路」を残して「住民」が消える 赤字ローカル線“延命策”の末路

 全国で深刻化している赤字ローカル線の拡大は、“日本崩壊”を警告するシグナルの典型と言える。このままでは赤字路線の見直し論議は人口減少スピードについて行けず、ローカル線の負債が積み上がって鉄道各社の経営そのものが揺らぎかねない。今後、「廃線やむなし」との決断が相次ぎそうな動きもあり、地方自治体や観光業界は警戒感を隠さない。しかし、その解決は容易ではない。

 人口減少問題の第一人者であるジャーナリストの河合雅司氏が最新著『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』をもとに解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

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 鉄道か路線バスかにかかわらず、商圏人口が必要数を下回れば公共交通機関は存続し得ない。そして、地方に行くほど商圏人口が減るスピードは速い。

 総務省の「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査最終報告」(2019年度)によれば、2015年度の前回調査と比べ集落数は0.6%(349集落)減った。人口にすると6.9%(72万5590人)減だ。139集落は無人化した。

 住民の過半数が65歳以上という集落は22.1%から32.2%へと増加しており、2744集落はいずれ消滅するとみられている。

 この数字が示しているのは、ローカル鉄道の赤字問題の本質は、単に鉄道需要(乗客)が減ったということではなく、沿線の人口が少なくなって民間事業として成り立ち得なくなってきているということだ。

 地域自体が“消滅”しようとしているのである。こうした現実を無視して鉄道を残したとしても、食料品店をはじめとする店舗やサービス、医療機関などが廃業・撤退してしまったならば、結局は沿線住民の暮らしは続かなくなる。「『線路』は残って『住民』は消えた」という結果となりかねないということだ。

 地域公共交通の全体像を描くには、人口が減っていく中で「地域」として残せるのかという点がまずもって問われる。

 一方、「赤字ならば廃止するという日本の考え方は世界の非常識だ。道路のように公共インフラとして位置づけるべきである」という意見もある。だが、人口減少社会では乗客だけでなく税収も落ち込む。採算を度外視し、税金を投入し続けて、公共インフラにふさわしい運行本数を維持するというのは現実的ではない。

 人手不足でどの鉄道会社も運転手や保線作業員の確保が難しくなっていく。限られた人的リソースを有効に活用することができなくなれば、本来ならば存廃の検討対象とならないはずの区間まで列車を走らせられなくなる可能性が出てくる。

 人口減少社会は部分最適でなく全体最適で捉える必要があるのだ。

【プロフィール】

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、最新の統計データに独自の分析を加えた未来図を示し、これからの日本が人口減少を逆手に取って「縮んで勝つ」ための方策を提言している。