【社説】システム障害 IT化進む世界への警告

AI要約

IT社会は利便性とリスクが裏腹の関係にあり、最近のシステム障害はIT依存社会への警告と受け止めるべき。

米マイクロソフトの基本ソフトウィンドウズに起因する19日の大規模なシステム障害が世界中で影響を広げた。

IT企業はセキュリティ強化に全力を尽くす必要があり、官民協力とデジタル人材の育成も急務である。

【社説】システム障害 IT化進む世界への警告

 IT社会は利便性とリスクが裏腹の関係にある。今回の大規模なトラブルを、IT依存を強める現代社会への警告と受け止めるべきだ。

 米マイクロソフトの基本ソフト(OS)ウィンドウズを搭載した端末で19日に世界規模のシステム障害が起き、航空機の発着、病院や行政機関のシステムなどに深刻な影響が広がった。

 幸いだったのは、原因が早期に判明したことだ。

 米IT企業クラウドストライクのセキュリティーソフト「ファルコン」の更新プログラムに欠陥があった。更新作業を始めたところ、ウィンドウズ搭載のパソコンなどに次々と異常が出たという。

 問題を特定した同社が修正をして混乱は収束に向かったが、運輸や金融の基幹システムが受けた被害は甚大だ。

 とりわけ航空業界は世界で4万便超が遅延し、5千便以上が欠航になった。成田空港を拠点とするジェットスター・ジャパンでは搭乗手続きなどのシステムに障害が発生したため、成田-福岡便をはじめ欠航が相次いだ。

 米国では警察や消防などの緊急通報に影響が出たり、医療システムの混乱で手術が遅れたりした。ATMやオンライン口座も一部で利用できなくなった。

 マイクロソフトによると、障害の影響を受けたウィンドウズ端末は約850万台と推定される。全ウィンドウズ端末の1%未満にもかかわらず世界に広がった混乱は、ITに依存する社会の危うさを浮き彫りにした。

 インターネットで世界がつながった結果、情報だけでなくトラブルも瞬時に広がるようになった。便利な半面、サイバー攻撃のリスクに常にさらされている。

 システム障害を起こしたクラウドストライクが、サイバー攻撃対策で顧客基盤を拡大していたのは皮肉としか言いようがない。

 システムの弱点を突くサイバー攻撃への抜本対策は、ソフトウエアを更新して修正するしかない。ただソフトウエアに欠陥は付きもので、事前チェックで根絶するのは難しい。今回のような形で起こる障害に、顧客の企業は対処しようがない。

 ITの基盤サービスを提供する企業は、社会的使命を肝に銘じるべきだ。スマートフォンのOSを提供するグーグルやアップルなど「GAFAM」と呼ばれる米巨大IT企業の影響力は特に大きい。セキュリティー対策に万全を期してもらいたい。

 IT依存にリスクがあるとはいえ、社会のデジタル化は止められない。立ち止まったり、引き返したりする選択肢はない。

 重要なのは官民が協力し、できる限りの対策を講じることである。危機に備え、優れたIT人材を育てることも必要だ。デジタル人材の厚みが増せば、セキュリティーの強化や経済成長につながる。