レクサスの新型「LBX MORIZO RR」、8速AT&6速MT仕様でサーキットを攻める

AI要約

「MORIZO RR」というモデルは、レクサス「LBX」のコンパクトラグジュアリーカーとして登場した。GRヤリスをベースにしており、外観や操縦性に注目が集まっている。

エクステリアでは、膨らんだフェンダーや大きなタイヤ、広がったボディなど、ベースモデルとの違いが明瞭に表れている。ロアアームに特許取得済みの構造「REDS」が導入され、操作性や安定性が向上している。

クルマの対話を重視し、ステアリングの応答性やサウンド演出にも力を入れている。走行性能はGRヤリスよりもやや重厚な印象だが、マニュアルトランスミッションやサイドブレーキなど、独自の要素が光る。

レクサスの新型「LBX MORIZO RR」、8速AT&6速MT仕様でサーキットを攻める

■ ベースモデルとは明らかに違うボリューム感あふれる仕上がり

 コンパクトサイズながらも妥協なき作り込みを行ない、カジュアルなラグジュアリーカーを提案してきたレクサス「LBX」に、「MORIZO RR」なるモデルが登場した。モリゾウこと豊田章男氏のような本物のクルマ好きが納得できるものをと開発が行なわれたというそれは、乱暴に言ってしまえば中身を「GRヤリス」としたことが本当のところだ。言葉にしてしまえば簡単に終わってしまうが、実はその開発の道のりは険しく、実のところはGRヤリスとかなり異なっている。まずは1つひとつ整理してその変貌ぶりを見ていこう。

 エクステリアはベースモデルとは明らかに違うボリューム感あふれる仕上がりだ。フェンダーまわりは膨らみ、全幅は15mm拡大となる1840mmとしている。そこに収まるタイヤサイズはなんと235/45R19。インセット35mmのホイールを装着する。ちなみにGRヤリスは全幅1805mmでタイヤサイズは225/40R18、インセットは45mm。これだけ見ても「MORIZO RR」がワイドで大きなタイヤを外側に出して履いているのが理解できるだろう。対して全高は-15mmとなる1535mm。だからこそドッシリとした安定感が感じられるのだ。このプロポーションを実現するために、ジオメトリーも変更。アップライトも違いキャスターを寝かせてホイールベースを20mmも延長している。これならタイヤを切ってもホイールハウスにタイヤが当たることはない。

 こうしたさまざまな仕様変更をした結果、キングピン軸よりもかなり外側にタイヤの回転軸がいることになる。タイヤを上から見たとすると極端な話、タイヤを切ればGRヤリスに対して前後に弧を描くように動くことになり、グリップが立ち上がるまでにラグが出る。その対策として誕生したのが特許取得済みのREDS(Response-Enhanching Damping Structure)というフロントのロアアームだ。熱硬化性樹脂をアームの隙間に流し込み焼き付けを行なうことで、操舵初期応答を改善しているという。

■ 「MORIZO RR」はクルマとの対話を楽しみやすいスイートスポットの広いセッティング

 そんな「MORIZO RR」の主役となるであろうDirect Shift 8ATからまずは走らせてみる。進化型GRヤリスから投入されたこの2ペダルは、キャラクターを考えればこちらのほうがマッチするのかもしれない。ゆっくりと走り出せば、静粛性豊かになめらかに駆け抜けていく。乗り心地もGRヤリスほど硬質ではなく、引き締められてはいるがフラット感は高く懐は深い。車重もGRヤリスより200kg以上も重たくなっていることもあって、乗り味がゆったりとしており上質感もそこで生み出せているように感じる。

 けれどもスポーツ性は失われていない。ステアリングの切りはじめから素直な応答を見せ、パキパキじゃなく程よいキビキビさを展開していく。操作に対するリニアさも十分だ。これならハードに攻め立てても問題はなさそうだ。試乗当日はヘビーウエットということもあり、はじめはやや躊躇したが、VSCを完全にカットして本気で走り込んでみる。

 するとまず驚いたのはサウンドの演出が豹変したことだった。かなりの音量が車室内を包み込んでいる。これはのちに知ったのだが、例えヘルメットを装着したとしても音が感じられるようにと、音量が最大にされていたのだ。設定次第で変化させられることにひと安心だが、最初からこの音を聞いたらかなり驚くだろう。それほどにインパクトは凄まじいものがある。

 スピーカーから聞かされることになるこの擬似音は、かなり作り込まれた感覚があり、バブリングをしているかのようなサウンドも与えられるところがおもしろい。アクセルの開け方や閉じ方に応じて変化するなど芸が細かいことも見どころだ。また、排気音は排気音らしくリアから聞かせるなど、リアハッチゲートに備わるスピーカーをフルに生かしていることもなかなか。これまでの擬似音とはひと味違う世界がそこにある。

 動力性能自体は重さもあってGRヤリスほどではないと感じるが、操る楽しみはこちらのほうが上かもしれない。速さやタイムを追求するのではなく、「MORIZO RR」はクルマとの対話を楽しみやすいスイートスポットの広いセッティングに感じる。ややピッチ方向の動きが大きく、ドリフトに持ち込むにはアクセルやブレーキの入れ方を考えなければならないが、振りまわす楽しみは十分。その気になればフルカウンターでコーナーに飛び込める安心感がある。

 すべり出しも穏やかで扱いやすい印象があった。欲を言えばフロントの伸び側の減衰力がもう少し引き締められていたらとも思うが、街乗りにおける乗り心地を考えると、この辺りがちょうど良いサジ加減なのかもしれない。将来的にはやはり可変ダンパーがほしくなるが、それは贅沢すぎるだろうか? けれども、4WDのトルク配分を50:50に固定するモードもあり、それを利用すればどんな状況でもリニアに動かせるからおもしろい。

■ レクサス初となるマニュアルトランスミッション、そして手引きサイドブレーキ

 そんなクルマとの対話をより濃くしてくれるのがレクサス初となるマニュアルトランスミッションの存在だ。まさかの3ペダルの存在をこの時代にレクサスが残すとは嬉しい悲鳴である。こちらのほうが軽いせいか、ノーズのキビキビとした応答性は一枚上手。さらに振りまわす楽しみが宿っていることは間違いない。

 さらに興味深いのはサイドブレーキを引いた時に警告音が鳴ることなく、リアタイヤをロックさせられることだった。GRヤリス同様、クラッチを踏まなくてもサイドブレーキが使える仕様だから、これはありがたい。サイドブレーキを引くたびにポーンと警告音がなるだけで、ドライバーとしては興醒めなのだから……。

 このように隅々まで磨き抜かれていた「MORIZO RR」には、やはりクルマ好きの心を十分に揺さぶってくれる仕上がりがあった。いかにもスポーツなクルマには乗りたくないけれど、たまの休みにはサーキットで思いっきり楽しみたい。または、奥さまをうまく説得して普段は足車として与えつつ、休日は旦那がサーキットで使うマシンとして役立つ、なんていう使い方もよいかもしれない。さりげなく上質に、そして街乗りからサーキットまでオールマイティに使えるマルチな才能には、ただただ感心するばかりだった。