JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは

AI要約

鉄道車両のそれぞれの部品においても、共通化が進んでおり、多くのメーカーが標準設計を採用している。

車両設計自体を共通化する取り組みもあり、統一性やコスト削減が図られているが、地域や路線の特性によっては困難な場合もある。

共通化の効果は、衝突安全性や環境負荷低減の面でもあり、今後もさらなる効果が期待されている。

JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは

 JR東日本とJR西日本は7月5日、旅客輸送量や労働生産人口の減少が見込まれる中、将来にわたり鉄道輸送事業を維持発展させ、利用者への安定的な輸送サービスを提供する目的で、車両の装置・部品共通化の検討を開始したと発表した。その狙いと、今後の可能性とは。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● 鉄道車両の全ての部品が 特注品なわけではない

 ひとくちに車両の「共通化」といってもさまざまなレベルがある。鉄道車両は基本的にオーダーメイドだが、当然、全ての部品が特注品なわけではない。日本の鉄道車両、特に電車は日立製作所、川崎重工業の子会社である川崎車両、JR東海の子会社である日本車輛製造、JR東日本の子会社である総合車両製作所、近鉄グループの近畿車輛の5社がほとんどを占める。

 例えば相模鉄道のJR直通用車両「12000系」や、東急電鉄の田園都市線「2020系」、大井町線「6020系」、目黒線「3020系」、京王電鉄京王ライナー対応車「5000系」は、JR東日本の山手線・横須賀線「E235系」と同様の標準設計「sustina」を採用し、総合車両製作所で製造されている。

 また、日立製作所のアルミ車両標準設計「A-train」は、東京メトロの「10000系」以降の多くの車両や、東武鉄道の「50000系」「60000系」、西武鉄道の「20000系」「30000系」など、JR東日本、大手私鉄、公営地下鉄、海外鉄道など広く用いられている。

 これらメーカーの標準設計で製造された車両は、鉄道事業者ごとの特色を出すために前面形状こそ作り分けられているものの、よく見れば、車体の側面や内装はほとんど同じであることに気づくだろう。このように衝突安全性向上や環境負荷低減に対応しつつ、コスト削減を図るのも共通化の効果だ。

● 車両設計自体を 共通化することも

 車体の標準設計のみならず、車両設計自体を共通化することもある。例えば東海道・山陽新幹線では、JR西日本「500系」などの独自設計の車両が走っていたこともあるが、現在は「N700S」などに共通化されている。北陸新幹線でもJR東日本とJR西日本が同一設計の「E7/W7系」を導入した。

 私鉄では東京メトロと東武鉄道が、地下鉄日比谷線向けに共通設計の「13000系」と「70000系」を近畿車輛に発注している。両系列は、前面形状を除く車体と走行関係のシステムは同一で、内装も装飾以外はおおむね共通化されているが、一部に構造が異なる点もある。

 近年の鉄道車両の生産数は、新幹線やJR東日本の一部形式を除けば、多くても300~400両、ほとんどは100両程度と少ないため、量産効果が小さい。特に一部列車のみ日比谷線に乗り入れる東武鉄道は、必要な編成数がそれほど多くないため、独自設計の車両を製造すると高くつく。そこで東京メトロと一括して発注することで、性能や操作性を統一するとともにコストダウンを狙った。

 だが、こうした車両設計の共通化は、上記新幹線や地下鉄など運行系統がほぼ一体化している路線であればともかく、全く違う地域を走る路線では、それぞれの環境や特性にあわせる必要があるため困難だ。