【開発者インタビュー】静止画も動画も妥協なし! キヤノン「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」設計の裏側を聞く

AI要約

家塚賢吾さんによると、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、静止画と動画の両方で活用できるハイブリッドな使い方が可能なレンズとして開発された。

動画クリエイター向けに、アイリスリングやズームリングなどの機能が搭載され、CINEMA EOSよりも手軽に高画質な動画を撮影できる設計となっている。

岩本俊二さんによると、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zの実現にはRFマウントの特長が活かされ、光学設計において自由な設計が可能となった。

【開発者インタビュー】静止画も動画も妥協なし! キヤノン「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」設計の裏側を聞く

 キヤノンは2023年12月、ミラーレスカメラ用のレンズ「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」を発売しました。

 キヤノンのミラーレスカメラ用レンズ「RFレンズ」では、これまでにさまざまなレンズが展開されてきました。「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」もその一つですが、静止画/動画の両方においてプロの高い要求に応えるレンズというコンセプトで設計された、これまでのRFレンズにはなかったものとなっています。加えて、24mmから105mmまでF2.8で通しとなるレンズも、RFレンズでは初めてです。

 鉄道コムでは、このレンズの開発に携わった、キヤノン イメージング事業本部のみなさんに、インタビューを実施。静止画・動画の双方に注力したという本製品について、開発の裏側を聞きました。

――本製品は、どのようなコンセプトで開発したのでしょうか。

 家塚賢吾さん(企画担当):「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」は、スチル(静止画)とムービー(動画)の両方で活用できる、ハイブリッドな使い方が可能なレンズを目指して開発しました。

 静止画の撮影用途では、たとえばウェディングポートレートのフォトグラファーの方々に使っていただくことを想定しました。ウェディングポートレート撮影では、主に24-70mmの標準ズームレンズを使われることが多いのですが、70mm以上の焦点距離が必要な場面もあります。失敗が許されないプロの方々は、レンズ交換中に貴重なチャンスを逃すことを避けるため、標準ズームつきカメラと望遠ズームレンズつきカメラの2台体制で撮影に挑むことになります。一方、ポートレート撮影では、テレ端105mmというレンズがあれば、かなりのシーンがカバーできるのではと、私たちは考えました。そのような流れで、このようなスペックの製品の企画開発に至りました。

 動画用途では、ワンマン体制か、数名のチームで撮影するような、限られた人数で撮影する動画クリエイターの方々に向けた仕様としてまとめました。そのため、ズームリングと三脚座の間にアイリス(絞り)リングを備えるなど、映像表現を広げられる製品となるよう企画しています。

 発表後、特にご好評の声をいただいたのは、映像制作に携わる方々でした。ズーミングしても全長固定であること、パワーズームアダプターが使えること、ズーミングしてもピントのズレがないことが喜ばれています。さらに、この大きさや価格(直販価格49万5000円)ですので、動画制作者の皆様からは、「ドリームレンズだ」とのお褒めの言葉をいただいています。標準ズームレンズとして捉えると確かに大きめではあるのですが、105mmまでF2.8固定というスペックは、静止画撮影でご活用いただく皆様にも十分に魅力を感じていただけるものと考えています。

 奥田敏宏さん(メカ担当兼開発チーフ):動画の面では、「CINEMA EOSよりも手軽に、高画質な動画を撮りたい」というお客様に向けて開発した製品です。しかし、動画だけに振ったわけではなく、静止画と動画の双方で活躍できるレンズを目指して開発しています。

 操作系については、普段動画を撮影されているお客様からの、レンズ先端から、フォーカス、ズーム、アイリスリングという3つの配置順でないと使いづらい、という声を反映した設計となっています。特にフォーカスリングについては、指かかりをよくするために他のRFレンズよりもパターンを少し粗くしています。

――本製品に対しては動画ニーズ対応というイメージがあるのですが、静止画撮影としても実用性の高い製品となっているのでしょうか。

 家塚さん:105mmまでカバーする標準レンズというスペックが、さまざまな分野でご活用いただけると考えております。今お話ししたように、ポートレートやウェディングといった場面でカメラを使われる方々にとっては、この広い焦点距離で活躍できます。また、スポーツを撮影されている方からも、105mmまでF2.8固定は便利だというお声をいただいています。

 従来の標準レンズの常識だったテレ端70mmから焦点距離が広がったことは、大きなメリットだと考えています。ポートレート以外の分野でカメラを使われるフォトグラファーのみなさまにとっても、想像力がどんどん広がっていくレンズとしてご活用いただけるのではないでしょうか。

――このレンズの製品名は「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」と、末尾にこれまでの製品にはなかった「Z」がつけられています。これはどのような意味なのでしょうか。

 家塚さん:この「Z」は、着脱式の「パワーズームアダプター」を装着できることを示しています。パワーズームアダプターは、モーターでズームリングを外部から動かすもので、動画撮影時に高精度かつなめらかなズーミングを可能とする製品です。こちらも本製品のコンセプトである、少人数チームの動画クリエイターに向けた仕様として検討したものの一つです。

 パワーズームアダプターは、現時点ではこの「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」のみが対応しています。対応レンズは、今後も追加していきたいと考えています。

――24-105mmクラスのフルサイズ対応レンズでは、他社製品も含めて、これまではF2.8固定の製品は存在していませんでした。今回この明るいレンズが実現できた背景を教えてください。

 岩本俊二さん(光学担当):RFマウントでは、マウントの口径が大きく、かつレンズ後端と撮像センサーの間隔を近くできる(ショートバックフォーカス)、という特長があります。本製品の光学設計では、この特長を十二分に活用することで、自由な光学設計が可能となり、魅力的なスペックをこのサイズで実現できました。

 また、ミラーレスカメラというシステムとなったことも、設計で有利に働いています。光学ファインダーを搭載していたかつての一眼レフでは、レンズに歪曲収差があると違和感を覚えやすく、使いづらいレンズとなるおそれがありました。そのため、歪曲収差はレンズ側で補正する仕組みとしていました。現在主流のミラーレスカメラでは、撮像センサーに投影された像を信号として処理し、これをEVF(電子ビューファインダー)に表示するシステムとなっています。つまり、撮像センサー上に投影した風景をそのまま見るわけではありません。そのため、レンズに歪曲収差が残っていても、EVFに映す前にソフトウェア側でリアルタイムに補正することが可能となるので、歪曲収差を電子的に補正することを前提としても、違和感なくご使用いただくことができます。本レンズは歪曲収差を電子的に補正するシステムを採用しており、新しいシステムを積極的に活用することで、このようなスペックが実現できました。

 内山実さん(電気担当):RFマウントでは、高速大容量の通信が可能となっています。歪曲収差の補正は、ミラーレスであるRFレンズだからこそ実現できた部分だと考えています。

 もう一つ、RFレンズで積極的に取り組んでいるのが、ズーム時のピントのズレへの対処です。これまでの動画向けレンズではメカで補正していたのですが、この仕組みでは限界がありました。これを電子カムと呼ばれる制御機構に置き換えることで、補正レベルの向上や、メカの小型化を実現しています。特に「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」では、絞り開放で動画を撮影するという、ピントがシビアな場面での使用も十分に考えられます。ここは非常に気を使った部分です。

――他社も含めると、このクラスのレンズではテレ端が105mm止まりの製品が大多数ですが、中にはテレ端が120mmというものもあります。「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」では、105mm以上の数値に設定するという考えはなかったのでしょうか。

 岩本さん:企画の初期段階においては、テレ端を120mmにできないかという案もあり、複数案からどのようなサイズに抑えられるかを検討しました。その結果、120mmまでカバーした場合には、目指すサイズから一回りも二回りも大きくなることが判明しました。今回は大きさとのバランスを考え、105mmでこのサイズ感という商品にまとめ上げました。