ファンのNPS+56を達成した 森永製菓 のコミュニティ戦略。ゆるいからこそ深まる顧客の熱量

AI要約

森永製菓のファンコミュニティ「エンゼルPLUS」は、NPSスコアが+56という驚異的な数字を持ち、顧客ロイヤルティを高めている。

猪瀬剛宏氏によると、ファンコミュニティの成功要因は「エンゼルギャラリー」や「エンゼルPLUS掲示板」などのアクティブなコンテンツや、会員とのリアルなつながりを重視している点だ。

11年の実績を元に、施策の調整やゆるい雰囲気を保ちながら、会員の生活に溶け込むようなコミュニティづくりを続けている。

顧客ロイヤルティを高めたい企業は多いだろう。「NPS」(Net Promoter Score)で、商品やサービスに対する信頼・愛着を測る調査をするとマイナススコアになることも珍しくないなかで、「+56」という驚異の数字を持っているのは森永製菓のファンコミュニティだ。

DIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「look inside!─マーケターの思考をのぞく─」では、企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていく。

今回は、「チョコボール」や「ハイチュウ」でおなじみの森永製菓マーケティング本部で広告部長を務める猪瀬剛宏氏に、ファンコミュニティ「エンゼルPLUS」の成功要因、マーケティングの有用性について聞いた。

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DIGIDAY編集部(以下、DD):2013年に立ち上げられたファンコミュニティ「エンゼルPLUS」の会員数が81万人を超えたと聞きました。

猪瀬剛宏(以下、猪瀬):ファンコミュニティは立ち上げても活性化や継続が難しいと言われていますが、「エンゼルPLUS」は11年目を迎えました。アクティブ率も高く、コミュニティはかなり盛り上がっています。

立ち上げた経緯としては、2008年頃からスマートフォンが普及しはじめたこと。コミュニケーションのあり方が変わりはじめ、一方的なマス広告だけが有効ではなくなってくる危機感がありました。この頃から「顧客との接点」に興味を持ちはじめた企業も多いと思います。

そういった経緯で当社も「お客さまとリアルにつながる媒体」として「エンゼルPLUS」を立ち上げました。ファンコミュニティとしてはかなり早かったと思います。

DD:どのようなコンテンツを用意されているのでしょうか。

猪瀬:もっともアクティブなのがサイトの最上部にある「エンゼルギャラリー」です。こちらは会員が自由に投稿できるようになっており、アレンジレシピや「今日食べたおやつ」などが随時アップされます。

会員の皆さまは「お菓子好き」という共通点があるので、いいねやコメントもアクティブなのが特徴です。反響が大きいので、必然的に投稿数も伸びています。「エンゼルPLUS掲示板」では運営側も会員も自由に書き込んでいて、10万件近くのコメントがつく投稿もあります。

もちろん当社からのキャンペーンや新製品のお知らせなどもありますが、広告を感じさせないように「ゆるさ」を重視しています。

猪瀬 剛宏/森永製菓株式会社 マーケティング本部広告部 広告部長。1991年森永製菓入社。2003年マーケティング本部。2007年営業マネジャー、2014年マーケティングマネジャーを経て、2018年4月より現職。同社のファンコミュニティ「エンゼルPLUS」の責任者。「エンゼルPLUS」では、お菓子好きなお客さま同士が気軽に楽しめて、ゆったりくつろげる場づくりを目指している。プライベートでは「食べ放題」マニア。年末は社内メンバーを募り、浅草の食べ放題メニューのある洋食屋に行くのがお気に入り。

DD:「ゆるさ」というのは面白いですね。

猪瀬:会員数が増えているのは、この「ゆるさ」「居心地のよさ」があると分析しています。管理人のKAZ(記事末写真左:松野員人氏)もサイト内で顔を出していますし、出張先で食べたものなどをアップする「何食べた?」も人気コンテンツです。

ありがたいことに「森永製菓の社員と話したい」というファンの方も多いので、運営側も積極的に参加するようにしています。また、会員の自由度も高く、UGCが生み出されてコミュニティが自走しているのも、投稿しやすい、コメントしやすい居心地のよい空間だからこそだと考えています。

DD:やはり11年という実績で、お客さまに求められる空気感を掴んだという感じでしょうか。

猪瀬:会員の発話が少なければ施策をやめたり、違うものを投入するなど、細かいチューニングは続けてきました。

運営側の圧が強いのはもちろんNGですが、ゆるすぎても「面白くない」という反応がわかります。そのあたりは「お客さまの生活のなかで、この施策のメリットは何か」を考えるようにしています。トライ&エラーの繰り返しではありますね。

立ち上げ当初は「お客さまの囲い込み」という考え方だったのですが、お菓子という商材は「非計画購買」がほとんどです。つまり、狙って買いに行くことは少なく、店頭で見かけて買うというもの。

しかもお菓子が好きなお客さまは森永製菓だけが好きなわけではなく、他社さんのお菓子も好きなはず。ですから「囲い込み」という考え方はそもそも違うんですね。

ただしゆるくつながっていれば、店頭で見かけたときに「チョコモナカジャンボ買おうかな」という気分になってくれる可能性があります。「ゆるくつながる」ことは大事なんです。