軍手メーカーが5本指の鍋つかみ開発…若手「アトツギ」支援プログラムで新たな顧客獲得へ

AI要約

福岡県が若手経営者の「アトツギ(後継ぎ)」支援に力を入れている。新商品や新サービスの開発を後押しし、27人が参加したプログラムでは、稲葉雄大さんの木糸とオーガニックコットンのキッチンミトンなど新商品が生まれた。

アトツギたちが得意とする技術を活かし、新しい試みを通じてアピールしている。クラウドファンディングサイトで商品を販売したり、サービス開発の部門も設けられている。

後継者不在が深刻な状況であることを示すデータもあり、若手経営者の育成が重要であることがうかがえる。

 何十年と続く家業を継いだ若手経営者の「アトツギ(後継ぎ)」支援に福岡県が力を入れている。時代の移り変わりでモノが売れにくくなっている中、新たな顧客の獲得に向け、新商品や新サービスの開発を後押ししようという取り組みだ。アトツギたちも長年培ってきた技術を強みに、これまでにない商品を生み出している。(手嶋由梨)

 県のアトツギの伴走支援プログラムは2021年度に始まった。事業開発や広報戦略の専門家、百貨店のバイヤーなどが指導役となり、1対1でアドバイスも受けられ、3年間で27人が参加。今年度からは商品だけでなくサービス開発の部門も設けている。受講は無料だ。

 1960年に創業した久留米市の軍手専門メーカー「イナバ」の3代目で、取締役の稲葉雄大さん(38)は昨年度、このプログラムに参加し、新商品のキッチンミトン(鍋つかみ)を開発した。熊本県の小国杉の間伐材から作られた「木糸(もくいと)」とオーガニックコットンを使い、軍手のように5本指に編み込んだ。二重構造で耐熱性を確保し、木糸を使うことで滑りにくくしたという。

 「異素材の組み合わせや指先を自由に使える形は、軍手メーカーだからこそできたと思う。既存事業だけでは知ってもらうのは難しいので、新商品で技術をアピールしたい」と稲葉さん。一般販売に向け準備を進めているという。

 昨年度のプログラムには稲葉さんのほかに30~40歳代の8人のアトツギが参加。建具制作の技術を生かした組子のコースター、職人が作った、塗ってたたくだけの染み抜き、老舗のしょうゆ醸造元が手がけるソースとスパイスなど開発した商品をクラウドファンディングサイトの「Makuake(マクアケ)」で販売した。

 帝国データバンク福岡支店が昨年11月に発表した調査によると、「後継者がいない」「未定」などとする県内企業の割合は57・9%。コロナ禍前となる2019年の67・2%より低下したものの、後継ぎ不在はなお深刻だ。九州・沖縄では昨年1~10月に後継者難による倒産が35件あったという。