【社説】百貨店の再生 地域と協力して活路開け

AI要約

地方都市の百貨店が経営難に陥る中、再生に向けて取り組む事例が九州でも見られる。

業績格差の背景にはインバウンド需要の影響があり、地方都市の百貨店は商圏のニーズに焦点を当てる必要がある。

財務のリストラだけでなく、地域資源を活用した魅力ある商品開発や地元との連携を通じて百貨店の再生を図るべきだ。

【社説】百貨店の再生 地域と協力して活路開け

 地方都市の百貨店が相次いで経営難に陥っている。全国では閉店により、3県が「百貨店ゼロ県」となった。

 九州でも佐賀や鹿児島の老舗が、外部の支援を受けて再生を目指す。生き残りを果たすには地方百貨店像を再構築する必要がある。

 佐賀市で県内唯一の百貨店を運営する佐賀玉屋は、京都市の不動産会社に事業継承して再建を進めている。

 鹿児島市の山形屋は、私的整理の一種である「事業再生ADR」を適用し、総額360億円の負債を圧縮する支援を受ける。

 郊外型の大型ショッピングモールや専門店との競合、インターネットショッピング市場の拡大など、百貨店経営は厳しさを増す。商圏の人口減少にも拍車がかかる。

 環境の変化に経営の転換が追い付かなかった店舗もあるはずだ。

 百貨店業界の中でも、大都市と地方都市では業績格差が顕著に見られる。

 日本百貨店協会の統計によると、2023年の売上高は全国平均が対前年比9・2%増だったのに対し、地方は総じて振るわない。九州では福岡市内が16・5%増で、それ以外は3・0%増だった。

 格差の一因はインバウンド(訪日客)需要にある。新型コロナウイルス感染の沈静化と円安の影響で、福岡市を含む大都市は訪日客による高額商品の売り上げが好調だ。

 一方、鹿児島などは運休した国際線の回復が遅れ、インバウンドの恩恵に乏しい。

 それを嘆くばかりではいられない。そもそもインバウンド需要が長続きする保証はない。地方百貨店が最優先で取り組むべきことは、各店舗が商圏のニーズに対応できるようにすることだ。

 まずは商品である。百貨店を訪れる消費者は、店のブランドや価格に見合った高付加価値の商品を求める。全国展開の量販店にない個性の強い商品の開発が欠かせない。

 特産物を生かした加工食品もその一例だ。地域資源を掘り起こし、生産者と協力して商品力に磨きをかける。こうした地域商社のような機能をもっと高めたい。

 魅力的な商品の開発は、プロ意識の高い人でなければ務まらない。消費者と生産者のニーズ、消費者のトレンドをうまく結びつけられる人材の育成が必要だ。

 老舗百貨店のほとんどは中心市街地に店を構える。観光客も足を運ぶ商店街をシャッター通りにしないように、アイデアを駆使して共存共栄を図るべきだ。

 百貨店が得意とする物産展などのイベントと、商店街の連携も一つの方法だ。魅力あるイベントは消費者の「コト消費」のニーズを満たし、街に活気をもたらす。

 借入金を減らす財務のリストラだけで百貨店は再生できない。時代に合った百貨店の魅力を付加することこそが、再建の鍵となる。