内縁の妻に遺産の半分を渡したいけど子供たちが猛反発…遺言の効力はどこまであるか? 生前贈与の注意点は?【弁護士が解説】

AI要約

内縁の妻に遺産を相続させるためには、遺言書を作成する必要がある。

遺留分の計算や贈与税の影響を考慮して、内縁の妻に遺産を残す対策を取ることが重要。

遺言執行者の指定や公正証書遺言の作成によって、遺言の円滑な執行が可能となる。

内縁の妻に遺産の半分を渡したいけど子供たちが猛反発…遺言の効力はどこまであるか? 生前贈与の注意点は?【弁護士が解説】

 遺言によって、相続人(相続する相手)や遺産の取り分などを指定することができる。では内縁の妻に相続する場合でも、遺言があれば思い通りに遺産を渡すことができるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する

【質問】

 私には内縁の女がいます。籍を入れたくても3人の子供が大反対。せめて正式な妻のように、遺産の半分が渡るように遺書を作りましたが、それも子供らが猛反発。しまいには、彼女に一銭も渡らぬよう家庭裁判所に訴えると息巻いています。どうすれば、確実に彼女に遺産の半分が渡るようになるのでしょうか。

【回答】

 自分の物でも、死ねば相続人の考え次第です。

 死後のことも自分で決めたいなら、遺言が必要ですが、遺言をしても兄弟姉妹以外の法定相続人が持っている遺留分の範囲は、侵害できません。

 相続財産と、生前贈与を合計した金額から、債務額を控除した金額(遺留分基礎金額)に、遺留分割合を乗じて遺留分の額を算出します。遺留分割合は、直系尊属のみが相続人だと3分の1ですが、それ以外は2分の1です。

 相続人が3人の子供だけだと遺留分基礎金額の半分に、法定相続分の割合3分の1を乗じた金額が、各子供らの遺留分額となります。

 各相続人が受けた遺贈や生前贈与、遺産(遺贈分を除く)の法定相続分の合計額から相続債務を控除した額が、その相続人の遺留分額を下回れば、その差額を、まずは受遺者から次いで受贈者の順に請求できます。この点、あなたは遺産の半分程度を内妻に残す遺言をしたのですから、生前贈与などがないとすれば、子供の遺留分を侵害しないので、心配ありません。

 相続人に対する贈与以外は、生前1年以内の贈与だけが遺留分基礎額に含まれます。そこで内妻に、生前贈与をして1年生き延びれば、その贈与を理由に、内妻が遺留分侵害額の請求を受けることはありません。健康に自信があるなら、生前贈与も対策の一つといえます。

 しかし、難点は贈与税です。相続税より税率が高いため、持ち出しが増えます。なお、贈与者と受贈者が贈与によって、遺留分を侵害することを知っていた場合には、1年の制限がなくなりますが、半分以下なら遺留分侵害になりません。税金の問題がなければ、生前に贈与しておくほうが安全です。

 遺言で遺産の半分を渡す場合、信頼できる人を遺言執行者に指定し、公正証書遺言にしておくと、遺言執行が円滑に進みます。

【プロフィール】

竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。

※週刊ポスト2024年7月19・26日号