KADOKAWA「犯罪者を利する」と抗議 NewsPicksの身代金報道に専門家「タイミングが良くない。余計なリソースを割かせる」「犯人の情報にも違和感がある」

AI要約

ニコニコ動画を中心にKADOKAWAに対するランサムウェア攻撃が起こり、復旧に1カ月以上かかる見込み。

NewsPicksが身代金要求とKADOKAWAとのやり取り情報をスクープし、KADOKAWAが報道を強く抗議。

専門家は報道のあり方について議論し、ハッカー側への配慮や報道の公共性について意見が分かれる。

KADOKAWA「犯罪者を利する」と抗議 NewsPicksの身代金報道に専門家「タイミングが良くない。余計なリソースを割かせる」「犯人の情報にも違和感がある」

 KADOKAWAを標的として行われた、ランサムウェアなどによるサイバー攻撃。8日からニコニコ動画を中心にシステム障害が起き、復旧には最低1カ月以上を要するとされている。

 そんな中、NewsPicksが22日、身代金を求める犯人とKADOKAWAとのやり取りとされる情報をスクープ。これにKADOKAWAは「犯罪者を利するような、かつ今後の社会全体へのサイバー攻撃を助長させかねない報道を行うメディアに対して強く抗議をする」と、損害賠償を含めた法的措置を検討するとのコメントを発表。SNS上でも「このタイミングはどうかと思う」など疑問の声が上がっている。

 ランサムウェアをめぐる“身代金報道”の是非について、「ABEMA Prime」では専門家を交え議論した。

 日本ハッカー協会代表理事の杉浦隆幸氏は、「民主主義国家には報道の自由がある。重要な役割だ」とした上で、「通常は交渉内容が流れてくることはない。報道機関にこうした情報を提供することはない。なぜ漏れているのかは不思議だ。報道されると、現場で復旧に務める人たちが他のことを考えないといけなくなる。それは阻止するべきだったと思う」と語る。

 サイバー攻撃に詳しいSBテクノロジーの辻伸弘氏は、「見出しを見た瞬間に『どきっ」となり、内容を読んで『あかん』と思った。まずタイミングが良くない。ランサムウェアをめぐる交渉は情報が不正確なことがある。別のケースだが、ある被害者は『実は自分たちはやられてなかったのに、メディアが取り上げたから対応に追われ、無駄な時間をすごした』と言っていた。まだ事件の対応中に余計なリソースを割かせるのはよくない」との見解を示す。

 作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「記事の中に犯人を利するような情報はなかった」と指摘。「KADOKAWAの手の内にある交渉材料を報じたら、犯人側に知らせてしまうことになるが、そうした情報は基本的になかった。慎重に書いていると感じた」と述べた。

 ハッカー側に利するという意見について、NewsPicksは取材に対し、「報道があった場合となかった場合で、ハッカー側に具体的メリットが生じるのか取材・検討したが、特筆すべきメリットは見い出せない」「報道がなかったことによる秘密裏の追加的なお金の流出の恐れは、ハッカー側のメリットとして十分に考慮すべき懸念」「ハッカーがこれ以上水面下で利益を得ることを防ぐという意義があったと考える」と回答。また今、報道した狙いについては「身代金のやり取りがあるという情報があり、その是非を問うことは社会的に大きな意義がある。犯罪組織に水面下で共有され、次の犯行を誘引する可能性がある」としている。

 これに佐々木氏は「まっとうな報道の論理だ」と語る。「“サイバー攻撃を助長させかねない報道”と言い出したら、犯罪報道はできなくなる。私たちには社会の出来事を知る権利があり、それを代行しているのが報道機関だ。最近は“マスゴミ”呼ばわりして、やることなすこと全てに“けしからん”と言うが、今回の報道には正義があると思う」。

 辻氏は「タイミングの悪さ」を繰り返し指摘した上で、「攻撃側が得をすることはないと思うが、同じようなメールを送ってくるといった模倣犯が出る可能性はある。ただ、NewsPicksが主張している『追加の身代金を払わせない抑止効果』については、この記事が止めたものもないと思う」との考えを示した。