威力が弱まる「環境アクティビスト」…株主提案数増加しても賛成率は最高20%の理由

AI要約

近年、企業の株主総会で環境提案が増加している。今年の6月総会でも、企業に脱炭素の取り組み強化を求める提案が増えそうだが、賛同率は伸び悩んでいる。

米国の株主提案を例に取り、ESG関連の提案が企業に与える影響や賛成率向上の戦術について述べられている。

資本市場の変化や株主提案に対する企業側の対応も考慮すると、今後の環境提案への展開に注目が集まっている。

威力が弱まる「環境アクティビスト」…株主提案数増加しても賛成率は最高20%の理由

 近年、企業の株主総会で「環境提案」が増加している。今年の6月総会でも、企業に脱炭素の取り組み強化を求める提案が増えそうだが、例年賛同率は伸び悩んでいる。提案する株主側はどのような戦術を用いてくるのか。日経新聞の上級論説委員兼編集委員である小平龍四郎氏が予見する。

 6月は株主総会の季節だ。ひと昔前のシャンシャン総会(質疑応答や議論などがなく、短時間で終了する株主総会)は影を潜め、最近は株主が容赦なく提案を繰り出してくる。今年の6月総会で提案を受ける企業は、過去最高だった昨年の90社を上回るかもしれない。

 企業に脱炭素の取り組みを求めるのを始めとして、ESG(環境・社会・企業統治)関連も定着した。提案が出ることそのものは当然。今後の焦点は提案の賛成率がどこまで上がるか。日本の環境提案をよく見ると、賛成率を高めるための工夫が随所に見られる。企業側も油断は禁物だ。

 米石油大手エクソン・モービルの株主総会は毎年、世界のESG投資家の注目を集める。2021年には環境系の株主が事前の予想に反して取締役を送り込むことに成功。ESG投資が勢いづくきっかけにもなった。エクソンは今年、オランダの環境保護団体「フォロー・ディス」など2団体の気候変動に絡む提案が事業を妨害しているとして、テキサス州の連邦地裁に提訴した。フォロー・ディスは訴訟を取り下げたが、エクソンは訴訟を続けた。これに対してカリフォルニア州職員退職年金基金(カルバース)などがエクソンの取締役再任に反対票を投じた。

 米国の株主提案はほぼすべて強制力のない勧告的決議で、さらに建設的ではない提案は証券取引等監視委員会(SEC)に判断を仰ぎ、議案に取り上げないことも可能だ。そうした通常の手続きではなく、訴訟という異例の対抗策に出たことは、「株主権への重大な侵害」(カルバース)というわけだ。

 エクソンvsカルバースの対立について、ESGに批判的なスタンスをとるウォール・ストリート・ジャーナル紙はカルバースの姿勢が過度の環境アクティビズムだと批判。これに対してカルバースはさらに声明を出し「環境だけでなくすべての株主提案権が危機にさらされている」と反論するなど、議論はヒートアップしていった。

 さて、肝心の投票結果だが取締役の選任案を平均95%の賛成で可決。あっけないほどの会社側の勝利だった。もともとカルバースは独自の取締役候補を立てておらず、反対票によって抗議の意思表示をすることが主眼だった。米国の取締役会は賛成率が低くても対抗馬がいなければ定員の範囲に収まっていれば選任される。従って、カルバースなど投資家側が独自候補を立て多くの賛成を集めない限り、エクソンの取締役選任が否決されることはない。

 さらに、ここ1~2年の資本市場の考え方の変化も見逃せない。これまでは投資家の力で企業に環境対策を強く迫り、ネットゼロを実現しようという考えが主流だった。場合によっては企業の株式を売却するダイベストメントに踏み切ったり、売却の可能性を匂わせて企業に圧力をかけたりする手法が多かった。