習近平氏への不満が社会全体に充満、「次の時代」に備えよ 政治体制転換は日本の利益【中国の今を語る②】

AI要約

毛沢東の死後に始まった改革・開放政策は経済と政治の自由化を目指していたが、天安門事件によって政治改革が頓挫し、改革モデルにねじれが生じた。

習近平国家主席は毛沢東の独裁的手法を取り入れ、個人独裁を推進しており、腐敗や格差などの問題が山積している。

中国は経済成長を達成する一方で政治改革を怠った結果、社会矛盾が深刻化し、環境問題などがもたらす不安定さが増している。

習近平氏への不満が社会全体に充満、「次の時代」に備えよ 政治体制転換は日本の利益【中国の今を語る②】

 「中国で毛沢東の死後に本格化した改革・開放政策は基本的に経済と政治の自由化だった。1989年に当局が民主化要求運動を武力弾圧した天安門事件で政治改革は頓挫。改革モデルはねじれ、官僚の腐敗や貧富の格差といった問題が山積した。解決には全面的な改革が必要だったが、習近平国家主席が選択したのは個人独裁を推進した毛のやり方だった」

 中国からフランスに亡命したCYセルジー・パリ大学の張倫教授が3月に来日、東京都内で中国の現状を分析した。(聞き手・共同通信前中国総局記者 大熊雄一郎)

 ▽人々は習氏に幻想を抱いていた

 そもそも習氏はなぜ強大な権力を掌握できたのか。2012年に習時代が始まった当初、改革派も含めて多くの人々が改革に踏み切るとの幻想を抱いていた。習氏はそうした期待を利用した。一方で腐敗官僚や政治エリート、富裕層に不満を持つ民族主義者は、毛のような強い指導者を望んでいた。こうした勢力も習氏の主な支持者となった。

 また習氏と同様に「紅二代」(中国共産党革命に参加した高級幹部の子弟)と呼ばれる人たちも重要な支持層だった。各方面が自らの理想を習氏に投射し、習氏は好きに解釈させて権力の源泉として取り込んでいった。

 習氏は反腐敗闘争を仕掛けて世論の支持を得ると同時に、政治ライバルを追い落とした。共産党は構造的な腐敗体質であり、誰でも調査対象となりうる。「腐敗を撲滅して党の地位を守る」と訴えれば誰も反対できない。

 私は(昨年死去した)李克強前首相と1980年代に交流があった。李氏は権力を拡大する習氏に対抗すべきだったが、権限を奪われてしまった。

 ▽悪循環

 中国は経済成長を実現する一方で政治改革を進めなかったために環境問題といった社会矛盾が深刻化し、不安定になった。治安維持に充てる「公共安全」費は国防費を上回っている。これが習氏が「国家の安全」を重視するようになった内部要因だ。外部要因は、国際環境の悪化。党は西側諸国が望んだような変革を起こさなかった。米欧などは、異なる政治体制やイデオロギーを持つ中国の台頭を警戒している。