半導体技術の掌握で「台湾は全世界の未来を決める」…頼新総統が就任演説にしのばせた「経済安全保障」の鍵とは

AI要約

2024年1月の台湾・総統選で当選し、5月20日の就任式で発足した民主進歩党の頼清徳政権。頼総統は就任演説で中国の威嚇や武力挑発への懸念を示しつつ、台湾の経済安全と防衛力強化の重要性を強調した。

就任演説では半導体先端技術を掌握した台湾の地位を強調し、AI革命の中心であることをアピール。また、TSMCの創業者も出席するなど、半導体関連技術の重要性を示した。

頼氏は台湾の発展を推進する3つの方向性を打ち出し、半導体を軸にした人工知能の発展や宇宙・海洋の開拓、国際的協定への参加などを掲げ、台湾の安全保障と経済成長に力を入れる計画を示した。

半導体技術の掌握で「台湾は全世界の未来を決める」…頼新総統が就任演説にしのばせた「経済安全保障」の鍵とは

2024年1月の台湾・総統選で当選し、5月20日の就任式で発足した民主進歩党(民進党)の頼清徳政権。注目された就任演説では中国の威嚇や武力挑発を懸念しつつも中台両岸の「共存」を訴え、「現状維持」を強調したが、防衛力強化とともに掲げた「経済安全の構築」では、台湾が半導体先端技術掌握した「AI革命の中心」だと指摘。「私たちが決めるのは私たちだけでなく全世界の未来」として「経済安全保障」におけるキーワードもちりばめていた。

就任演説では中台両岸関係に関し、「卑屈にもならず、傲慢にもならず、現状を維持する」姿勢を強く打ち出した頼総統だが、中国が「未だに台湾への武力行使を放棄しておらず」「各種の脅威と浸透に直面している」点にも言及し、「防衛力の強化」と同時に「経済安全の構築」も掲げた。

このうち「経済安全の構築」に関わる点ついて頼氏は演説の中で、「これからの世界を展望すれば、半導体はいたるところに普及し、AI(人工知能)の波が世界中を席捲する。現在、台湾は半導体製造の先端技術を掌握しており、AI革命の中心に立っている」と主張。 「これは世界の民主的サプライチェーン(供給連鎖)の鍵であり、世界経済の発展と人類の幸福と繁栄に影響を与える」としたうえで「私たちが決める未来は私たちだけでなく全世界の未来だ」と胸を張った。

これを裏付けるかのように、就任式典には半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の創業者である92歳の張忠謀(モリス・チャン)氏も出席。総統府前に特設された観閲台最前列に着席し、歴代副総統や民進党重鎮らと肩を並べてその存在感を示していた。ちなみに2月に開所式が開かれたTSMC熊本工場では、回路線幅12~28ナノメートル(ナノは10億分の1)の演算用ロジック半導体について、2024年10~12月期量産開始目指して現在準備を進めている。

頼氏はまた就任演説のなかで、今後台湾当局が業界と緊密に連携して台湾の発展を推進する3つの大きな方向性にも言及。 まず「未来を見据えた知恵の永続」として、この半導体を軸に台湾を「人工知能の島」とする挑戦を掲げた。軍事、人材、経済力を含む総合力強化への取り組みで、デジタルトランスフォーメーションなどで中小企業の格上げをはかり、第二の経済的奇跡を起こすことや、量子コンピューター、ロボット、メタバース、精密医療など多分野先進的技術に大胆に投資し、台湾が将来世界をリードする地位を確立することを宣言した。

次に「宇宙での競争と海洋の開拓」を掲げ、台湾を無人機(ドローン)の「民主的サプライチェーン」の中心にし、中低軌道の次世代通信衛星開発などで世界の宇宙産業に参入する目標も設定。加えて海洋科学技術の研究にも投資し、海洋産業の発展促進や競争力強化に取り組む姿勢も強調。

さらに「世界を俯瞰したマーケティング」として「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)参加を目指し、世界の民主主義諸国と二国間投資保護協定を締結することや、グローバルサプライチェーン(世界規模の供給連鎖)における重要な地位を維持し、地政学的変化がもたらすビジネスチャンスを捉え、「半導体、人工知能(AI)、軍事産業、セキュリティ制御(監視カメラやサーバー等)、次世代通信といった『五大信産業』を育成し、継続しなければならない」などとして、「経済の太陽が沈まない」台湾を目指す決意を示した。

蔡英文前政権は経済面における対中依存度下げる方向に舵を切っており、加えて今後は台湾が得意とする分野での一層の経済成長をはかり、同時にTSMCが台湾では「護国神山」(国を守る山の神)と呼ばれるように、安全保障の面からも関連技術の育成、強化が鍵を握りそうだ。

一方、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は頼氏の就任演説を受けて、「演説ではかたくなに『台湾独立』の立場を堅持し、分裂というでたらめを公然と宣伝し、両岸の対立と対抗をあおっている」とのコメントを発表。頼政権をけん制している。