ポケベル爆弾でヒズボラを大量殺傷、関与疑われるイスラエルの「暗殺の歴史」と非情なまでのその「実力」

AI要約

9月17日、レバノンでポケットベル爆発事件が発生し、12人が死亡、2700人以上が負傷した。イスラエルの関与が疑われる中、ヒズボラ戦闘員を標的として行われた作戦が明らかになった。

レバノン政府はイスラエルの行動を非難し、米国政府関係者によるとイスラエルはポケットベルに爆発物を仕込んだと伝えられている。さらに翌日にはトランシーバーにも爆発が起こり、20人が死亡、450人以上が負傷した。

ヒズボラは携帯電話のハッキング防止のためポケベルを使用しており、イスラエルとの戦闘が激化している状況で今回の事件が起きた。イスラエルの非情な対応と技術力が改めて浮き彫りになった。

 (国際ジャーナリスト・木村正人)

■ 17日にはポケベル、翌18日にはトランシーバーが一斉爆発

 [ロンドン発]9月17日、ベイルート郊外などレバノン各地で親イラン民兵組織ヒズボラ戦闘員を標的にポケットベル数百台が同時に爆発、少なくとも少女を含む12人が死亡、2700人以上が負傷した。

 イスラエルは沈黙を守るが、同国の関与が強く疑われている。長年の対立が戦争に発展する懸念が膨らんでいる。

 現地時間の同日午後3時30分、ヒズボラ戦闘員が携帯していたポケベルが一斉に数秒間鳴り始め、指導部からと思われるメッセージが届いた。その後、ポケベルが爆発。負傷者の中にはイラン大使も含まれていた。レバノン政府は「主権に対する重大な侵害」と非難している。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(18日付)は作戦について説明を受けた米国とその他の政府高官の話として、イスラエルはレバノンに輸入された台湾のゴールド・アポロ社製ポケベルのバッテリー脇に30~60グラムの小型爆発物と遠隔操作できる起爆装置を仕込んだと伝えた。

 ヒズボラはゴールド・アポロ社に3000台以上のポケベルを発注、戦闘員だけでなくレバノンやシリア、イランの一般メンバーにも配布していた。ゴールド・アポロ社は同紙に「ライセンス契約を結んでいるハンガリーの別メーカーが製造した」と説明している。

 通信機器の一斉爆発は、翌18日にも起こった。レバノン保健省によるとこの爆発で少なくとも20人が死亡、450人以上が負傷したという。さらに日本人にとって衝撃的な報道があった。ロイター通信によれば、18日に爆発したトランシーバーには「ICOM」の社名と「日本製」の記載があったという。ICOMは大阪の通信機器メーカーだ。

 中東への輸出を担当する同社の欧州現地法人は日本のANNの取材に対し「指摘されている製品は数年前に生産を終了していて、これまでもレバノン向けの大量の取引はない」「中東地域へは輸出管理が厳格なため、エンドユーザーなどを確認したうえでの輸出となり、正規品とは考えにくい」と答えている。

■ 携帯電話のハッキング防止のためポケベルを使用していたヒズボラ

 ヒズボラは携帯電話のハッキング防止のためポケベルを使用していた。昨年10月にパレスチナ自治区ガザのイスラム武装組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けて以来、ヒズボラもロケット弾やドローン(無人航空機)でイスラエルを攻撃、携帯電話禁止が一段と徹底された。

 国境を越えたイスラエルとヒズボラの戦闘は激しさを増しており、イスラエルがハマスへの攻撃を縮小するにつれ、ヒズボラへの本格的な攻撃を準備していたとみられる。今回の大量暗殺事件が改めて物語るのは敵に対するイスラエルの非情さとそれを可能にする技術力だ。