欧州の2035年EV化戦略、「自滅招く」とメローニ伊首相 業界は罰金と中国攻勢に悲鳴

AI要約

イタリアのメローニ首相が、EUの2035年までに新車の温室効果ガス排出をゼロにする計画を批判。EU自動車業界も排出規制の見直しを求めており、EV市場の不振が懸念されている。

EUは環境と経済の両立を目指し、新車をゼロエミッション車にする計画を進めているが、ACEAがEV市場の下降線を指摘。自動車業界に多額の罰金が課される恐れもある。

現在のEUの排出規制に適合するため、自動車メーカーはEV化を進める必要があるが、EV市場は低調。充電インフラ整備や価格面で課題が残る状況だ。

欧州連合(EU)が2035年に新車の温室効果ガス排出をゼロにするよう定めた計画について、イタリアのメローニ首相は18日、欧州産業の「自滅につながる」と批判した。欧州自動車工業会(ACEA)は19日、電気自動車(EV)の販売不振を理由にEUに排出規制の見直しを要求。欧州のEV移行に不安が漂い始めた。

メローニ氏の発言は、ローマで開かれたイタリア産業総連盟の会合でのもの。「環境対応によって、雇用喪失を招いたり、産業の各部門を解体させたりすることがあってはならない」と訴えた。イタリアは自動車関連産業に約25万人の雇用を抱えている。

EUは、経済と環境の両立をめざす成長戦略を描く。35年に域内で販売される全新車をゼロエミッション車とする計画はこの戦略の柱で、昨年春の閣僚理事会で合意した。計画に沿ってEV化を急ぐため、来年、新車の排出規制が強化されることになっている。

■罰金総額3兆円の試算も

だが、ACEAは19日の声明で、EV市場は「下降線をたどっている」としてEUに緊急救済措置を求めた。排出規制の強化によって、自動車業界は「数十億ユーロの罰金が課される」恐れがあると指摘。各メーカーは必要な環境投資ができなくなり、雇用削減や生産調整に追い込まれると警告した。安価な中国製EVがEUに流入していることを念頭に、「競争力低下」への危機感も示した。

EUは現在、新車1キロ走行あたり平均CO2排出量の上限を95グラムと定めており、来年には93・6グラムにする。基準を超えると、販売台数に応じて罰金を科す。メーカーは罰金回避のため、新車の多くをEVに切り替える必要があるが、EUでEV市場は低迷している。

ACEA統計によると、8月のEU域内のEV新車登録台数は、前年同月比で44%下落した。新車に占めるEVの割合は14%。昨年同月の21%から減少が続き、ハイブリッド車の半分以下にとどまった。EVの低価格化が進まず、充電インフラ整備も遅れていることが背景にある。

ACEA会長でフランス自動車大手ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は今月7日に仏ラジオで、EU規制が来年強化されれば「自動車業界への罰金は総額150億ユーロ(約3兆3千億円)に達する」との試算を提示した。この負担は、計250万台の生産見送りにつながりかねないと警告していた。(三井美奈)