サンフランシスコ出身のカマラ・ハリスとシリコンバレーの「微妙な関係」

AI要約

2024年8月5日、ワシントンDCの連邦地方裁判所はGoogleを擁するAlphabetに対して反トラスト法違反の判決を下した。反トラスト法訴訟は、バイデン政権の方針により厳しい政策が打ち出されたものの、ハリス政権誕生によりその方向性が再検討される可能性が生まれた。

バイデン政権の反トラスト政策に影響を与える可能性があるのが、ハリスがサンフランシスコ出身の政治家であり、シリコンバレー支持者の影響を受けること。ハリス政権においては、Big Techに対する扱いが変わる可能性がある。

ハリスvsヴァンスの対立が注目される中、リナ・カーンの処遇を巡り、バイデン政権の反トラスト方針は再考されている。ハリス政権誕生により、どちらの方向性が採用されるか注目されている。

サンフランシスコ出身のカマラ・ハリスとシリコンバレーの「微妙な関係」

2024年8月5日、ワシントンDCの連邦地方裁判所はGoogleを擁するAlphabetに対して反トラスト法違反の判決を下した。長年に亘りGoogleは、インターネット上の検索・広告市場における独占を維持・拡大するために、競合他社を排除しようと試みてきたからというのがその理由だ。具体的には、AppleやMicrosoftに毎年数十億ドルを収める見返りに、スマートフォンやウェブブラウザにおけるデフォルトの検索サービスとしてGoogleを設定しておくよう契約したことなどが挙げられている。

反トラスト法訴訟は、訴えの主体が司法省反トラスト局やFTC(連邦取引委員会)などの政府機関であるため、訴訟を起こすか否かの組織内判断の時点で、ときの政権、すなわちホワイトハウスの主である大統領の意向に大きく左右される。この点でバイデン政権は、AlphabetやAmazon、MetaなどシリコンバレーのBig Techの肥大化を疑問視しており、彼らへの監視強化を目的に、独占の弊害についても検討させてきた。そのために、反トラスト法の運用にあたりBig Techについてはこれまでとは異なる視点からの精査が必要だと主張して注目を集めた、1989年生まれの俊英リナ・カーンをFTC委員長に抜擢した。以後、バイデン政権では基本的にBig Techに厳しい政策を打ち出した。今回の判決もその一環である。

ただ、ここに来てこうしたバイデン政権の方針がもしかしたら覆るかもしれないと思われる状況が生まれてきた。再選を目指していたバイデン大統領が去る7月21日、大統領選からの撤退を表明し、代わりにカマラ・ハリス副大統領が推薦されたからだ。ハリスは8月下旬に開催されたDNC(民主党全国大会)で指名を受諾し、正式に民主党の大統領候補となった。

問題は、ハリスがカリフォルニア、それもシリコンバレーのお膝元であるサンフランシスコ出身の政治家であり、彼女の支援者にもテックエリートが少なくないことだ。そのため、仮にハリスが11月の大統領戦で勝利した場合、シリコンバレーの扱いがハリス政権で変わるかもしれない。カマラ・ハリスは、シリコンバレーとワシントンDCの関係を書き換えるのだろうか? ややこしいのは、前回〈39歳「トランプの継承者」は田舎出身の「厨二病をこじらせた男」…?副大統領候補の「本心」〉も触れたように、トランプのランニングメイトであるJDヴァンスが、イーロン・マスクやピーター・ティールが送り出したNew Rightの旗手でもあることだ。そのため、Big Techの扱いについては、バイデンvsトランプに代わり、ハリスvsヴァンスの対立のほうが鮮明になりそうだ。それはリナ・カーンの処遇を巡るもので、端的に、ハリスの支援者であるリード・ホフマン――マスクやティールと同様、元ペイパルマフィアの一人であり、LinkedInの創業で成功した投資家――がリナ・カーンの更迭を望んでいる。対してヴァンスは、Big Techの勢力を削ぐことに賛同し、かねてからリナ・カーンの言動を称賛していた。

よく見知った者同士の間で、口約束で良い行動をする、という紳士協定で済ますのか、それとも、誰が監督者になっても運用がぶれないように、法として行動規範を固定しておくのか。サンフランシスコのインナーサークルに属するハリスなら、前者に戻るのかもしれない。ネジレが生じそうな予感がする。先が見えなくなった。