「鎖でベッドに縛り付けろ!」…イラン政府による尋問で倒れた女性が病院で「医者」にされた残酷な仕打ち

AI要約

イランでは思想犯・政治犯として逮捕され、過酷な拷問を受けることが明らかになった。2023年にノーベル平和賞受賞したナルゲス・モハンマディが告発。

日本で刊行される『白い拷問』は、世界の自由への闘いをリアルに伝える作品。ジェンダーギャップや宗教に疎い日本人にも訴える。

拷問を受けた活動家が体験した過酷な日々が描かれており、その一部を紹介。実際の状況に目を向ける必要性を訴えている。

「鎖でベッドに縛り付けろ!」…イラン政府による尋問で倒れた女性が病院で「医者」にされた残酷な仕打ち

イランでは「好きなことを言って、好きな服を着たい!」と言うだけで思想犯・政治犯として逮捕され、脅迫、鞭打ち、性的虐待、自由を奪う過酷な拷問が浴びせられる。2023年にイランの獄中でノーベル平和賞を受賞したナルゲス・モハンマディがその実態を赤裸々に告発した。

上司の反対を押し切って担当編集者が日本での刊行を目指したのは、自由への闘いを「他人事」にしないため。ジェンダーギャップ指数が先進国最下位、宗教にも疎い日本人だからこそ、世界はつながっていて、いまなお闘っている人がいることを実感してほしい。

世界16カ国で緊急出版が予定されている話題作『白い拷問』の日本語版刊行に先駆けて、内容を一部抜粋、紹介する。

『白い拷問』連載第5回

『「マスター」と呼ばれる尋問官に夜通し…イラン政府が「無実の女性活動家」にした「衝撃の拷問」』より続く

拘禁されて8日目のことだった。長い尋問のあとで独房に戻された。両手の感覚がなかった。足もそうなりかけていて、動かせなかった。

これ以上ひどくなる前に看守に言ったほうが良いと思い、看守が来たので私はちょっと具合がおかしいと説明した。彼は立ち去り、それから戻ってきて、「チャドルを被れ、病院に行くぞ」と言った。

4番棟には、4つのベッドと心電計、医療器具などを備えた部屋が1室ある。囚人の具合が悪くなったり、何か起きたりしたときには、そこに連れて行かれて医師が診察する。私は立ち上がり、チャドルを被って歩き出した。

まだ廊下を数歩も進んでいなかったと思う。どうなったのか自分でも分からないが、床にばったり倒れ込んでいた。少し目眩がして体が重かったが意識はあった。両脚に力が入らず、全く動かせなくなった。体が麻痺したかのようだった。口のなかで舌がもつれている。話もできない。声が途中で出なくなって、言っていることが意味をなさなかった。

私の倒れた場所の目の前の独房から、叫び声があがった。囚人はドアの隙間から何時間でも廊下を眺めているのだが、おそらくこの時もそうしていた誰かが、倒れた私を見たのだろう。3人の男がやって来て、毛布を床に広げ、私の手と足をつかんでその上に乗せると、毛布を持ち上げて209棟の医務室に連れて行った。私は心電図をとられ、何かの注射を打たれた。

その夜から、同じことが起きるたびに私は注射をされたが、体調は日に日に悪くなる一方だった。医師が看守に、私に毎晩飲ませろという薬を処方した。看守はコップ1杯の水とともに、その薬を寄こすようになった。

あるとき、尋問に向かう階段を下っている最中に倒れ、一番下の段まで背中で滑り落ちたことがあった。尋問官は規定どおり私の前にいたのだが、支えてはくれなかった。なんとか起き上がろうともがいた。体の下から足を引っぱり出そうとしたが、足から骨や神経がなくなってしまったようだった。おそろしい状況だった。自分がこんな風になってしまって、ひどく怖くなった。

私は死ぬことや病気になることは怖くなかった。だがあの沈黙の、打ち捨てられた独房で、説明のできない事態が自分の体に起きていることが怖かった。また男が何人かやって来て、毛布を広げ、私を乗せると医務室に連れて行った。