現代きっての哲学者スラヴォイ・ジジェクに会いに行ったら、いろいろと「型破り」すぎた

AI要約

スロベニアの哲学者・思想家、スラヴォイ・ジジェクの日常生活や妻との関係、インタビュー内容について紹介している。

ジジェクは妻との生活時間帯の違いや、妻とのコミュニケーションのあり方をユーモラスに語り、自宅やリュブリャナでのエピソードを披露している。

ジジェクの人間独特の特徴や知性と下品な側面のバランス、彼のファンの間での人気などが描かれている。

現代きっての哲学者スラヴォイ・ジジェクに会いに行ったら、いろいろと「型破り」すぎた

ラカン派精神分析を用いて、ヘーゲルからポップカルチャーまでを語り直すスロベニアの哲学者・思想家、スラヴォイ・ジジェク。いまでも積極的に論考を発表しているが、近年は左派メディアからも距離を置かれているという状況にある。英誌「ニュー・ステイツマン」の記者が、このエネルギッシュな75歳の哲学者に会いに、スロベニアの首都リュブリャナを訪ねた。

夫婦の生活時間帯がバラバラなのは問題だ。スラヴォイ・ジジェクの妻の就寝時間は遅く、だいたい午前4時頃。一方のジジェクは、午前1時にはベッドに入る。

朝、ジジェクは掃除をし、買い物を済ませて朝食も作る。焼きたてのパンに半熟卵、妻のためにグレープフルーツも添える。午後4時ともなると彼はもう疲れてしまうのだが、妻はよく「ちょっと前に起きたばかりじゃない」と文句を言うそうだ。

「ふざけんな! 起きたばかりなのは君だけだ! って言ってやるんだ」とジジェクは中指を突き立てて吐き出した。「俺はもう活動を始めてから7時間たってんだ! ってな」

夜こそが、ジジェクの妻のゴールデンタイムである。

「『もう働く時間はおわり。休んでいいよね』と言って、ソファーに寝転んで足を伸ばし、何かちょこちょこ食べるものを用意して、ばかすかタバコも吸って、映画を観る。妻はこれを夫婦のコミュニケーションの時間にしたいらしい。喋りながら一緒にテレビを観るってことだ。で、私はまた言うわけだ。『ふざけんな! 俺はまだ何にもやってないぞ! せにゃならん仕事があるんだよ!』」

スロベニアのジャーナリストにしてジジェクの4人目の妻ジェラ・クレチックは、ラカン派の同志でもある。ある日の午後、筆者はたまたま首都リュブリャナで彼女に出くわした。鮮やかな黒髪の彼女はバックパックを背負い、大学からの家路を急いでいた。

ジジェクは彼女に会えるのが心底嬉しいらしい。彼は自分が彼女に惚れた理由も語ってくれたが、8時間のインタビュー中、これだけはオフレコにしろとの指示だった。

筆者はスロベニアに滞在していたが、ジジェクたちのマンションを訪ねたわけではない。別に何も見るべきものはないんだよ、とジジェクは言った。「大量の本とパイプとツイードのジャケットがある書斎とか、そういう英国風の神話的光景は見つからんよ。そんなもの存在しないから」

同時代人としては最も有名な理論家であるジジェクだが、仕事はソファで妻の隣に座りながら膝上でする。ロシアの違法アップロードサイトからコピペもする。マルクス、ヘーゲル、ラカン、キルケゴール、シェリングなど、あらゆるものをだ──そして自分の著作も。

ジジェクは話し出すと止まらないが、待ち合わせには必ず時間通り出てきてくれる。この6月の2日間で、我々は何度も会うことになったのだが、彼はいつも待ち合わせより早く来ていた。自宅には招いてもらえなかったが、彼いわく、この街自体も全体的にたいしておもしろくはないらしい。

だが、ともかく我々は暖かい雨のなか、リュブリャナの街中を一緒に巡ることにしたのだった。ジジェクは傘を持ってきてくれた。自分のもあるぞ、と上着のポケットを叩いてみせる。そのポケットはジジェク用語でいうところの「肛門的」な場所らしく、要するに、コンパクトに物をしまいやすいということだそうだ。

優れた知性を持つ人々にはありがちなことだが、ジジェクは身体的なもの、汚いものに執着する。だが同時に、彼はとても上品な人間なのだ。自分の冗談がいきすぎていないか確認するため、他人のリアクションを常に気にしている。