2050年には95%が海に沈むインドネシアの首都移転。"市民置き去り"の実態

AI要約

地盤沈下と海面上昇により沈みつつあるジャカルタ。未来の首都移転計画に対する市民の反応や深刻な格差が明らかに。

2050年に95%が海に沈むと予測されるジャカルタ。地盤沈下の主な原因や深刻さについて。

首都移転プロジェクトが進む中、新首都地域の地価が急騰。

2050年には95%が海に沈むインドネシアの首都移転。

深刻な地盤沈下と海面上昇により、海に沈みつつある都市が、インドネシアの首都ジャカルタだ。同国政府は19年頃から首都移転の計画をスタートし、今月から遷都は本格化している。しかし、ジャカルタ市民の中にはこの事業について、無関心だったり怒りを示したりする人も多い。現地取材で見えたのは、日本とは比較にならないほどのジャカルタの格差だった――。

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■2050年には95%が海に沈む

「この島は近い将来、海に沈んでいくそうだ。子供たちが大きくなったとき、この土地も思い出も、すべては海の中なんだろ? 本当にそんなことが起こるのか。今でも俺には信じられないよ」

そう話すのはアミルさん(60代男性)だ。インドネシアのジャカルタ北部にある小さな漁村で出会った彼は、近隣の海で捕(と)れた小魚を売って生計を立てている。

汗が染みついたポロシャツに短パン姿。車両が通るたびに砂埃(ぼこり)が激しく舞う路上の片隅が彼の職場だ。路面に並べた小魚を黙々と籠の中に入れている。そして、咥(くわ)えたばこの煙をくゆらせながら、こう続けた。

「これからの生活? 何も決めてない。自分たちではどうすることもできないんだ。だけど俺は死ぬまでここに住みたいと思っている。ただそれだけだ」

首都水没――まるで映画や小説のような話が今、ジャカルタで起きている。地盤沈下が急速に進み、島が海に沈みつつあるのだ。

世界最大の群島国家インドネシア。その首都ジャカルタはジャワ島北西部に位置し、現在も東南アジアの発展を牽引(けんいん)している経済都市だ。

そのジャカルタが、大きな危機にさらされている。インドネシアにある国立バンドン工科大学の研究によれば、2050年にはジャカルタ北部の95%が海の中に沈むという衝撃的なデータがあるという。

「地盤沈下の主な原因は住民や企業による地下水の汲(く)み上げです。ジャカルタは水道の整備が行き届いておらず、住民の多くが違法な井戸水を汲み上げて生活しています。

現在は、年間15㎝ほど地盤沈下が起きていて、最も激しい場所では、年間28㎝という速さで土地が沈んでいるといいます。すでに北ジャカルタの約40%が海面より低い位置にあるのです」(現地特派員)

こうした地盤沈下に加え、50年には海面が現状から25~50㎝上昇、2100年までにインドネシアの沿岸都市のほとんどが海水に漬かると予測する専門家もいる。

そんな危機的な状況の中、19年にインドネシア政府が打ち出したのが、首都移転という一大プロジェクトだ。 

■新しい首都は地価が爆騰中