まるで高校の生徒会?知名度と資金力があれば大統領になれる米政治のアマチュア主義

AI要約

米国の政党は非常にゆるやかな構造を持ち、政治家との距離が近い。

大統領選では政治経験のない一般市民でも予備選挙を展開できるため、アマチュア志向が強い。

米国の政治文化は民主主義が草の根から根付いており、市議会などで活発な議論が行われている。

 イスラエルとハマスの対立はなぜ収束しないのか。ロシアのプーチン大統領はなぜウクライナを侵攻し続けるのか──。最新の世界情勢を読み解くには、地政学、宗教、歴史、民族、経済といった「公式」に、政党という「変数」を加えることが必要だ。

 「政党を見るという“ミクロの目”を持つと、世界を見るという“マクロの目”も備えることができ、その国や地域の実情が寄り立体的に見える」と語る元外交官で著述家の山中俊之氏が語るアメリカの政党について。

 ※この記事は、『教養としての世界の政党』(かんき出版)より「アメリカ」部分を一部抜粋・編集したものです。

■ 誰でも大統領になるチャンスがある米国

 米国の政党には党員についての厳格な規則もありませんし、義務的な党費も党の活動をする義務も原則的にない。日本の自民党のような公認権(選挙で政党として公認を与える権限のこと)や資金を持つ強力な党執行部も存在しません。

 重要な政策については全員の意見を一致させるという、日本の政党では当たり前である「党議拘束」も原則なし。

 議院内閣制で政党や派閥が非常にかっちりしている日本人からすると「与党の党首が大統領では?」という感覚があり、「大統領候補と党首は別だ」という米国は摩訶不思議に思えるかもしれません。

 政党がとてもゆるやかな構造をもっているうえに、米国の「個人主義と自由競争」が加わると、大統領として権力を振るいたい人にとっては権力志向が非常に強くなります。

 党内では「支持基盤をどれだけ取るか!」で激しい自由競争が生まれ、政治経験のない一般市民でも、資金力や知名度さえあれば予備選挙を有利に展開できることがあります。

 まるで高校の生徒会と言ったら言い過ぎですが、素人っぽい。トランプ元大統領が当選したのは、米国の政党に内在しているこのアマチュア志向ゆえと言えるでしょう。

■ 政治家との距離が近い米国

 大統領選は4年に一度、「11月の第1月曜日の翌日」と決まっています。選挙の年、街には候補者たちのポスターが貼られ、チラシも配られます。

 一般家庭の庭に「共和党の○○を応援しています!」などと立て看板が置かれ、街ゆく車にも「民主党の▲▲支持者」というステッカー。選挙チームは人海戦術で「うちの候補をよろしく」と電話やSNSで有権者にアピールするので、ボランティアを含めて相当な人数が必要です。

 米国は「政治家との距離が近い国」だと言えます。地方議員なら尚更で、平日の夜にこぢんまりした市議会が開かれ、そこに市民が参加して意見を言うというのも珍しくありません。市議会だと人数も少なく、ごくわずかな手当で議員活動をしつつ昼間は普通に働いている“兼業政治家”もいます。

 市議会は簡単に入れるので私も傍聴したことがありますが、市議会議員と市民が活発に議論をしており、民主主義が文字通り“草の根”として根付いていると実感しました。

 さて、大統領選の候補者たちが目指すのは、まず予備選挙。政党の代表候補を選ぶためのもので、登録者限定の「閉鎖型」と、有権者なら誰でも投票できる「開放型」があります(ただし、両方の政党で投票することはできません)。

 民主党も共和党も、まずは党内で戦うわけです。各候補者はメディアを使って大々的にアピールするので、注目度は非常に高いと言えるでしょう。