高級ブランドはなぜ「アップサイクル」市場に神経をとがらせるのか

AI要約

米プロフットボールリーグ(NFL)のトラビス・ケルシー選手がシャネルのビンテージスカーフをアップサイクルして作ったシャツを着用し、シャネルとの法的争いが発生。

アップサイクリングと商標権の対立がファッション業界で拡大し、有名ブランドがアップサイクリング業者に対し訴訟を起こすケースが増加。

ルイ・ヴィトンやリーバイスなどもアップサイクル業者を相手取り、商標権・著作権侵害訴訟を行っており、警戒心が高まっている。

高級ブランドはなぜ「アップサイクル」市場に神経をとがらせるのか

(CNN) 約1年前、米プロフットボールリーグ(NFL)のトラビス・ケルシー選手が、前面に2羽の大きなピンクのフラミンゴがプリントされ、下部にシャネルの巨大なロゴが入った派手なシルクのシャツを着て登場した。

このシャツは、スタイリストのローガン・ホーン氏がシャネルのビンテージスカーフをアップサイクルして作った。ホーン氏のブランド「Jローガン・ホーム」は、伝統的な高級アクセサリーのリメイクを専門としている。

ホーン氏の作品は、1点約3000ドル(約44万円)で販売されており、ミュージシャンのデュア・リパや2チェインズも愛用している。現在ファーフェッチ、キス、ザ・ウェブスターなどの通販サイトで販売されているが、一方で、シャネルの法務部にも目を付けられている。

今年2月、シャネルの代理人を務める弁護士がホーン氏に停止通告書を送付し、シャネルのロゴやその他のブランド要素を使用した製品の販売を停止するよう求めた。

最近、このようにアップサイクリングが法的な争いに発展するケースが相次いでおり、ファッション業界の持続可能性を高める上で重要とされてきたアップサイクリングと、既存の商標権の保護範囲との間で対立が生じている。

米フォードハム大学ファッション法研究所の創設者、スーザン・スカフィディ氏は「我々には、(アップサイクリングと商標権という)相反する二つの価値観がある」とし、「(アップサイクリングは)はやっているし、倫理的でもあるが、間違いなくリスクを伴う」と付け加えた。

Jローガン・ホームのデザインに対するシャネルの抗議は、青天の霹靂(へきれき)というわけではない。

歴史的に、主要な高級ブランドは、セカンダリーマーケットを警戒してきた。彼らは、自社製品がセカンダリーマーケットで販売されることにより、慎重に管理しているブランドの流通やイメージに対する統制が損なわれたり、売上の減少や偽造の助長につながることを懸念している。

特にこの10年間は、オンラインの再販プラットフォームが急速に台頭した影響で、ブランド各社は神経をとがらせている。

一部のブランドはためらいながらもセカンダリーマーケットを活用し始めているが、依然として慎重な姿勢を崩さないブランドもある。特にシャネルは、リコマース(中古品販売)業者は同社のブランドを無断で使用したり、偽物を販売しているとして、それらの業者に対し、注目度の高い訴訟を提起してきた。

(シャネルが再販業者ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンド(WGACA)を訴えた裁判で、ニューヨークの裁判所は今年2月、WGACAに対し、シャネルへの400万ドルの賠償金の支払いを命じ、シャネルは大勝利を収めた。また現在、別の再販業者ザ・リアルリアルとの訴訟が係属中だ)

これまで小規模なアップサイクリングに対する注目度は低かったが、アップサイクリングはさらに広まりつつある。その要因として挙げられるのが、大きなロゴ入りのストリートウェアに対する需要の高まり、ビンテージ製品や売れ残り品の入手機会の拡大、さらに若いデザイナーの間で見られる持続可能な活動に対する欲求の高まりなどだ。

その結果、シャネルに加え、ルイ・ヴィトンやリーバイスといったブランドがアップサイクル業者を相手取り、商標権・著作権侵害訴訟を起こすケースが増えた。

ルイ・ヴィトンは2022年に、テキサス州でリメイクしたヴィトン製品を販売していた企業に対して起こした訴訟で、60万3000ドルの損害賠償と恒久的差し止め命令を勝ち取った。またリーバイスも昨年、フランスのブランド「コペルニ」に対して訴訟を起こした。リーバイスは、コペルニが使用しているポケットの縫い目や布製のタブがリーバイス製品と紛らわしいほど酷似していると主張する。

またリーバイスは、同社のジーンズを許可なくアップサイクルした商品に加え、このような類似品の販売が、消費者の混乱を招くリスクをさらに高めたと主張している。

英ファッションメディア「ビジネス・オブ・ファッション(BoF)」はルイ・ヴィトンとリーバイスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。